この感情に名前を付けてはいけない 何故、うまくいかない。 そもそも、私という生き物は物事が思い通りに運ばなければ嫌なところがある。まあそれは誰だってそうだ。だが過剰なまでのそれが私という人物の過去をあのように彩った。見渡せば一面赤い色。掌にも赤。ふと歩き出した一歩が床を踏むことはなくてそれはぐにゃりとした何か。そう、そうだ。この感覚。この感覚だ。西条さんのときと同じだ。結局私という生き物は罪を重ね、また重ね、そうやって生き、懺悔は後でできるなど豪語し結局懺悔などさせてもらえる間もなく死んでいくのだ。 そもそも死、というものは生き物には必要不可欠なものだ。 だから、だから、だからだから―――― だから、何?何なんだろう。わからない、だから、死は怖い。 「……うっ、」 口に入れたご飯が喉を通ることはなかった。口にこびりついた人の味がまだ、消えない。 からん、と箸を捨てると傍にあった襖を開け縁側に先程まで口に含んでいたものと胃液を吐き出す。 「……うっ、げほ、」 「日向さん、大丈夫ですか!?」 慌てて駆け寄って来た雪村さんに背中を摩られる。そういえば、不快感で吐くって始めてかも。 「………、」 ぜえぜえと荒い呼吸をすると後ろを手探りで襖を閉めた。 「……日向さん、」 「雪村さん、すみません……。食事中なのに……。」 「いえ、大丈夫です。どこか具合でも悪かったんですか?」 「…………さあ。」 自分の吐きだしたものを砂で埋める。 「…………くそ、こんな悪循環ばかりっ。」 小さく呟く慧の言葉を聞き、千鶴はどうすればいいか戸惑った。 「……。」 そんな千鶴を見て慧は静かに微笑んだ。それに千鶴も微笑みもう大丈夫ですか?と、声をかけた。 「多分、平気です。」 「後で何か食べやすいものでも用意しましょうか?」 「……いえ、結構です。当分は、何も欲しくない。私より西条さんに持って行ってあげてください。」 慧はそのまま立ち上がるとまだむかむかする胃を押さえながら歩き出した。千鶴は暫くそこに立ち尽くすしかなかった。 *** 「…げほ、」 どうせなら気分が晴れるまで吐き出してしまおうと口に手を入れ、無理矢理胃の中のものを全て吐き出した。慧は向かった先は厠。そこから出ると井戸にむかい口を濯ぐ。 「…………。」 じっ、と真っ暗な空を見た。今晩は月もなく、部屋に明かりが必要だなとぼんやり思った。 そんなとき、今まで避けていた気配が自分に近づいて来るのを感じ慧は振り向いた。 「………日向か。」 彼女は何処に行っていたのか甘い花の香を連れて帰って来ていた。その香が私の心を静かにさせた。 「手、」 「ん?ああ……狐に少しな。」 少しじゃない癖に。血の滲んだ包帯。刀は、握れるのだろうか……。だが謝ることは許されない。聡い彼女はきっと気付いてしまうから。謝ることができるなら、私のこの静まらない心も少しはましになるのに。ああ、これもまた私の罪。 「……そうですか。」 出て来た言葉は当たり障りのない言葉。 「今の俺にだったらお前も勝てるかもな。」 「そうですね。でも西条さんには倍返しにされそうなので結構です。」 西条さんは珍しく私の前でくつくつと笑った。何かいいことでもあったのかな。 「西条さん、」 「?」 「ご飯、食べてあげてくださいね。」 「………食べてないお前の台詞か?」 「食べました。が、喉を通りませんでした。」 「…………。」 「不快感ばかり。あ、ご飯がまずいわけじゃないですから。」 「……知ってる。」 江戸育ちの刹に千鶴のご飯は食べやすかった。対する慧が作るご飯もまあ、美味しいが江戸の味とは違う、だが京の味ではない。慧が作るご飯の味付けはきっと彼女の故郷の味。 これまた珍しく声を出し、くすくすと笑っていた慧だが刹をちらりと見ると笑うのを止めた。 「……西条さん。」 「ん?」 「そのお守り、絶っ対に外さないでください!」 慧は必死に、至極真面目に言った。多分、この桜の香がないと自分は絶対的に彼女に近付けなくなる。彼女の、何かが変わっている。本人も気付かない何か。それは、あの池田屋の日から…。 「西条さん、真面目な話をします。」 「…なんだ。」 いつもの無表情に戻った慧に刹も神妙な顔になる。 「池田屋事件、まだ覚えていますね?あのとき……何が、ありました?」 「……何も、なかったさ。」 真面目に答えてくれる彼女だが慧は納得しなかった。 「これは私の私情ですので楽に答えていただいて構いません。…………もう一度だけ聞きます。あのとき、何がありました?もしくは、敵に何かをされました?」 「…………。」 慧は静かに目の前の少女の返事を待った。 110110 長くなりそうorどーしたらいいかわからないのでパス!……ほんと、ごめんなさい。そして見てくださる皆様に土下座の勢いで謝罪します。きったない描写ばかりすみませんでしたぁぁあああ!!!! てか、この狐さんの話も軽い編だよね。いや、おっぱじめたのは私ですが、はい。 ……この話を書いてる今、お腹が気持ち悪い雪子でした〜。 ふうちゃん次、頑張って!! 雪子 - 20 -
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