光を掻き分け闇を求める 噛まれたところからの出血、生き物に噛まれたのは初めてのことだと思った。その証拠にどくどくと流れている鮮血に少し驚いる。俺の手を噛んだときの狐の顔は、紛れも無い何かを怖がる時のものだ。噛まれたあとがくっきりと残る手に傷が塞がってからも完全には消えてくれそうに無いなと他人事のように思う。 「刹、その大丈夫か?」 俺の手を見て目を見開く藤堂。俺が思うほど傷が深いということだろうか。傷を放っておくのは面倒なので懐にしまってあった手ぬぐいを雑に巻きつける。じわりと血が滲んでいるが放っておいても大丈夫だろうと思い、それ以上何かを施すのをやめた。 「…平気だ。」 「まさか、動物に優しい刹が噛まれるなんてね。殺気でも出したの?」 「さぁな、でも…。無意識に出していたら噛まれたのも納得がいく。」 「でもさぁ、今まで噛むようなようすじゃ無かったのにな。」 「動物は色々な事に敏感だからな。あいつが悪いわけじゃないさ。」 適当に返事を返して、総司に用事があったのを思い出した。懐から小さな巾着袋を取り出す。 「なにそれ?」 「金平糖だ。近藤さんが総司と食べろとさ。確か好きだったろ?」 「ぇ!?俺も喰う!!」 「平助にはあげないよ。僕達にってくれたんだから。」 「えー!」 「俺はたべねぇから、二人で食べろ。」 「刹も好きじゃなかったっけ?金平糖」 不思議そうに目を見開く総司に苦笑いを溢した。 「最近、食欲わかねぇんだ。あとででいいから、雪村にも夕餉はいらないといっといてくれ。」 「お前って朝餉も確かくってねぇよな?」 「俺のは馬鹿三人で食ってくれたらいい。」 「これから何処かにいくの?」 「彼方んとこ。」 *** 「刹?」 聞きなれた声が聞こえて瞳を上げた。目の前には手当てを施す為のものが入った箱。 「早いな。」 「傷酷いからなぁ。」 急いだったんや、と笑う彼方に怪我を負った右手を突き出す。ゆっくりとゆっくりと外されていく布が血で固まっていて中々離れてくれない。 「えらいまた、深い傷や。」 「そんなに酷いのか?」 「せやなぁ、もう少し傷が深かったら刀握れんかったで。」 刀が握れなくなる、考えただけでも死にたくなる。刀が持てないのならただの屍じゃないか。剣客にとって刀を持てないという事は死に値することだ。 「何にかまれたん?」 「……体が大きめな狐だ。」 「狐?こんな時期にかいな?」 「試衛館の時から着いて来ていたらしい。手を伸ばせば噛まれた。」 「殺気でも放ったやろ。」 「………そうかもな。」 本当は殺気など微塵も放っちゃいない。その呟きは心の奥にしまった。次、また同じ狐が現れたら脅えさせて知ったことを誤ろうとそう思った。 *** 十番組が巡察に出たのを見計らって日向がいなくなったのも知った。おそらく雪村もついていっているだろうと言うことは簡単に推測できる。俺は彼方に一言声をかけてから屯所からそう遠くない神社へと向かった。 「桜、楓。」 「あ、刹お兄ちゃん!!」 「え、ほんと!?」 この子達は以前迷子になっていた子供達だ。お礼がしたいとのことで夕方になる一刻前にとこの場所で約束していた。 「あの、この前はありがとう!」 「刹お兄ちゃんのお陰でお家に帰れました!」 双子故なのか笑った顔がそっくりだった。俺は二人の頭を撫でて笑った。 「お兄ちゃん、手どうしたの?」 「痛い?」 噛まれた手の方を触って泣きそうな顔をする子供に、痛く無いよと言ってまた頭を撫でた。 「ほんと?」 「あぁ、本当だよ。」 「治る?」 「治して見せるさ。」 きゃっきゃっとはしゃぐこの子達が眩しい。純粋無垢で無邪気な子供。 「あのね。これ、楓と二人で選んだの!」 「お兄ちゃんがずっと元気であるようにって?」 そうして差し出したのは、神社などでよくみかける護身を願う匂袋だ。 「これを、俺に…?」 「うん、お兄ちゃん危ないお仕事するんでしょ?」 「だから、怪我しないようにお守り!」 小さな手がきゅっと俺の手を包み込む。乗せられたのは薄い藍の匂袋。ふわりと漂う香りに目を見開いた。 「桜か。」 「「うん!!」」 すっと首にかけて、また二人に笑う。 「大事に持ってる。ありがとうな。」 手を繋いで帰っていく幼子が見えなくなるまで見送った。首に掛かっている匂袋が新選組を思わされた。 20110108 刹視点、そして撃沈。スランプなのかなぁ…。そういえば、彼方の出番が減ってきている気がする。死亡フラグ立ちそうで怖いなぁ(遠い目) 芹 - 19 -
← back → |