口にはださぬ想いもある。 「あの、西条さん。」 俺の隣を歩く雪村が俺の着物の裾を小さく引っ張った。 「…どうした?」 振り向いて聞いてやれば、言いにくそうに俯いている様子が見えた。 「もしかしてだが、迷惑じゃとか気にしているのか?」 「…。」 無言は肯定。さきほどから元気が無かったのも頷ける。 「あんたは気にしなくてもいいよ。」 本当は相手に触れるのも躊躇ったが、もうこのさいだとどうでもよくなった。 軽く頭に手をのせて撫でてやった。 「土方さんの命令って言うのも半分あるけど、別にこういうことに付き合ってやるのは嫌じゃないからさ。」 普段滅多に笑わないが、雪村の少し笑った顔をみたら自然と自分も笑えた。それに少し驚きを感じたが、まぁいいかと自己完結をして我に返った。 「西条さんは、不思議な方ですね。」 「よく言われるよ。」 しばらく二人で色々な店を回って、ちょうど団子屋の角に差し掛かったときだった。 「おい、貴様!よくも俺の肩に当たりやがったな!!」千鶴と不逞浪士の肩がぶつかったのだ。実際にはわざとぶつけられたの方が正しいが。 「す、すみませんっ」 「怪我しちまったみたいだ。あんた金持ってんのかよ!?」 いい加減目障りだと思い、雪村を後ろに隠して俺は前に出た。 「あぁ?なんだ貴様は!?」 「あんたに名乗る名前は持っていない。さっさと消えないとただじゃすませねぇよ?」 「なんだと!!」 「まて!そいつ、新選組の西条だ!!」 もう一人後ろに控えていた奴が口を開いて叫んだ。 「ちっ、いつかこの仮は返してやる!!」 いつも見に付けている隊服が幸いしたのか、浪士はすぐに逃げていったが俺の後ろに隠れている雪村の顔色が悪いように感じた。 「…雪村。」 俺の服を握り締めている手を掴んだ。少し震えている。こんなとき、日向ならどうするだろうか。 「……怖がるな。あんな奴等より、俺の方が強い。いざとなったら他の奴等も駆けつけてくれる。」 頭を数度撫でて、泣きそうな雪村に俺はある決意をした。 「西条、さん。私っ。」 「…雪村…。刹という名を覚えろ。」 「……?」 「いざとなったらその名を呼べ。誰も居なくても駆けつけてやるから。」 苦笑い気味に笑って見せれば、雪村は笑った。これで彼女の不安を少しは取り払えただろうか。彼女が落ち着くのを待って、俺は屯所への帰路を雪村と歩いた。 *** 「おかえりなさい。」 俺達が屯所の門をくぐれば待っていたのは日向だった。俺は適当に返事を返して自室へと向かおうとした…が。 「…どうした?」 雪村が俺の袖を掴んでいて進めなかった。 「あの、西条さんと日向さんは仲が悪いんでしょうか…?」 その言葉に俺と日向は顔を見合わせた。 「どうして、そう思うんですか?」 「なんとなくですけど、距離があるように感じたと言うか。」 なるほどなっと思った。確かにまだ俺達は完全に信頼したという訳では無い。ただ昔と比べればマシになったと言うだけだ。 「そんなことはないですよ。私は彼女を信頼していますし、主の仲間ですから。」 俺も別の意味でその言葉には賛成だった、だから雪村に同じだと頷く。雪村は何処か嬉しそうに笑った。 「じゃあ、三人で雪を待ちませんか!?」 今度は唐突な雪村からの提案。俺も日向もただ苦笑いするだけだった。 「もう少しで降りそうなんですけど…。」 あれから丁度、一刻位。俺達は三人でお茶を飲みながら雪が降るのを待った。若干空の雲行きと共に日向がそわそわし始めているのが分かった。 「…日向。少し落ち付け…。」 俺の言葉にはっとしたのか、日向は俯いて小さくすみませんと呟いた。雪がすきなのだろうかと思ったが生憎、俺は雪が少し苦手だ。雪が降れば平助達が雪合戦を始めて流れ弾が部屋の襖などに当たって大惨事だ。それだけは避けたい。 「あっ、降ってきました!!」 目の前に小さな白い粒が、ちらほら頬に当たって冷たい。隣に居た日向と雪村は嬉しそうに笑っている。俺も、二人を見てから小さく唇に弧を描いた。 2010 12 25 クリスマース!!に書けました^^ なんだか嬉しい。雪子さん次に繋げられるかな…。頑張ってください!! 芹 - 11 -
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