開かない瞳と目が合った 「…………、」 裸の足でぽすぽすと土の地面を歩く。昨日、雪村さんは外に出れて一日楽しそうだった。だが土方さんが西条さんをつけたのには理由が二つあるのだろう。一つは西条さんと雪村さんの交流。それから雪村さんが逃げた際に直ぐさま斬れる人間。私は、斬れない。彼女は不思議な人だから。毛が逆立つような。それでいて優しさ、愛おしさを感じる。だけど、畏れが心に残る。不思議、としか言えない。 「………慧ちゃん?」 聞き慣れた幹部の声に顔を上げる。 「沖田さん。」 「そんな素足で歩くと風邪ひいちゃうよ。」 おいで、と彼は私の腕を引いた。 「風邪なんてひきませんよ?」 「君の大好きな主が心配するよ?」 「…………。」 彼は苦笑いのような、だがしてやったりな表情をしていることだろう。庭の井戸で水を汲み上げ、手ぬぐいを絞る。 「沖田さん…?」 縁側に腰を下ろされ、足を拭かれる。 「君って大人に見えて子供だよね。空を見上げて雪でも待ってた?」 「………。」 物好きだね、と桶で布を洗いまた絞り足を拭いた。 「毎年この季節になると降るのを待ってるよね。」 「雪が好きなんです。」 彼は私の足を拭くと隣に腰を下ろした。 「みたいだね。」 「……。」 わかってて聞くなんて意地が悪い人だ。 「あ、忘れてた。」 「?」 「君の大好きな主が呼んでたよ。」 「……はやく言ってくださればいいものを。」 ありがとうございました、と足のことを含め頭を下げると頭を撫でられはやく行きなよと言われた。 たった、と駆け出し主の元へ走る。臭いを求め走れば自室にたどり着いた。中からは沖田さんに三馬鹿と呼ばれる面子がいるらしい。 声をかけそっ、と入ると主は座布団を枕に寝ていた。 「…………珍しいですね。お酒も入ってないみたいですし、」 酒の臭いはしない。 「そりゃあ侵害だな。」 「俺らだっていつも飲んでるわけじゃないんだからな。」 平助と永倉さんが小さめな声で言った。 主は基本的には短気短気だと言うが反面真面目だ。こうして仕事のない時間とは言え、寝ているのは珍しい。 「左之さん夜更かしでもしてたのか?」 「いえ、昨日は私と同じ時間に…………」 「つか、慧が寝るの遅かったんじゃねえの?」 「…………。」 私は昨日のことを思い出し眉を下げた。確かに昨日は私が雪が降らないかと空を見つめていたのを主は横で温かなお茶を飲みながら見ていた。 「……。」 「その様子じゃ心当たりがあるみたいだな。」 にやにやと一本取ったと言いたげな永倉さん。胡座を組むその足を叩いてやる。 「ぬぉおぉぉ…………、」 「表情が気に入らない。」 「うわ、えげつね……。」 永倉さんは足を叩けば大抵おとなしくなる。まあ、力加減はしているしすぐに痛みはひくようにしている。別にツボを押したわけじゃないんだし。 それにこの面子にはこのやり取りが普通なのである。 「………にしても、よく寝てますね。」 これなら主が眠ってから雪を待っていればよかった。結局昨日、雪が降ることはなかったが。 ――慧、今日は諦めろ。 ――雪なんて待ってればいくらでも降ってくるから。 主に言われ、私は部屋に入ったのだ。 「……風邪とかひいてませんよね、」 「馬鹿は風邪ひかないって言うじゃん!」 「人のことは言えないぞ。」 まさにぴったりな言葉だと言いだしそうな平助に先手をうつとまあ、そうだけどと顔を反らした。 「じゃ、左之も寝ちまったし…。俺らは行くとするか。」 「おう。」 「……すみません、」 障子に手をかける二人に謝ると気にするなと言いながら出て行った。 寝ている額に手を当てるが別に熱があるわけでもないから本当に昼寝なのだろう。私がきちんとしなければ、と慧は思った。 外の気配を探るが傍には人間がいないらしい。いくら冬が好きだからと言っても肩が出たこの忍装束じゃ寒い。腕を寒さから守るのは二の腕から巻かれた包帯だけだ。この包帯は手持ちの包帯や薬剤などがなくなった際に使用する。 「…………くぁ、」 眠っている人を見ると眠くなる。 狐の姿に戻り横を向いている主の腹辺りでとぐろを巻くと少し引き寄せられた。きっと座布団か何かと勘違いしているのだろう。それに私は温かいから暖を取ることに繋がる。 背中に優しい手を感じながら狐特有の赤っぽく黄色い瞳を閉じた。 20101225 クリスマスですね。誰と絡んでも主に戻る子← 沖田くんがなかなか絡んでくれないので…。沖田くんは世話やきだと思う。だって子供に遊んでもらってるじゃん← 更新遅くなりすみませんでした。 雪子 - 10 -
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