表情の作り方を知らない 山南さんの帰還。俺はその日、食事も稽古も極力山南さんを避けていた。今いる面子の中でも山南さんとは結構長い時間を一緒にいた。だからこそ、怪我に対しての言葉も見つからなかったし、声をかけて下手に何かを言ってしまえば気まずくなってしまう。だけど、山南さんはいつも通りでそんな俺を気になったのか、わざわざ部屋にまで足を運んでくれた。で、今はその冒頭に至る。 「私を避ける刹の気持ちも分かります。しかし、何時もどおり接してください。そのほうが私も嬉しいですし、何より君に避けられるのはあまりいい気分ではないんですから。」 そう言われた。山南さんは切れ者だが優しい一面を持つ人だ。俺のことなど簡単に悟ってしまうだろう。 「そうだな。俺も山南さんには笑っててもらいたい。」 だから俺も自分の正直な気持ちをうちかけることにしたんだ。そうしたら、また前の山南さんに戻る気がしたから。 パタパタと廊下を走る音が聞こえる。何事かと思い襖を開ければ雪村が炊事の準備の為走り回っていた。 「あっ、西条さん…。」 パチリと目が合った。別に話すことは無い。先ほど山南さんも部屋に戻った。だけど、少し前に日向の言っていた言葉を思い出し、相変わらず小煩い奴だなと内心思った。 「…ご苦労様。」 そう言ってみると雪村は笑った。やはり笑えば女の子だなと改めて思う。顔が歳相応だ。彼女ははい!と元気に返事して何処かへいってしまった。退屈だなと考え、総司か彼方辺りに相手をしてもらおうかと立ち上がった。 「もう終わり?」 「なんや呆気ないなぁ」 目の前のケラケラ笑う二人、俺はこのとき初めて思った。この二人は組ませてはいけないと。だが、俺がもう駄目だと確信付いている二人に悪いが全然へばっちゃいねぇ。むしろこれからだ。 「あんたらがな。」 一気に突っ込んで二人の竹刀を飛ばしてやった。振り返ればぽかんとした二人の顔があった。 「それはせこいわ。」 「でもそれが刹だからねぇ。」 そんな二人の会話を聞いてから苦笑いを溢した。やはり何年も共にいたと言うだけでこういった会話は一番しやすい。 「お疲れ様です。」 そして何時からいたのか、日向が手ぬぐいをもって走ってきた。 総司と彼方は、受け取って汗を拭いていた。そして俺にも手ぬぐいを差し出した。少し抵抗はあるもののやはり親切という事で受け取った。 「そういえば、千鶴ちゃんは?」 彼方の問いに俺も気になった。監視がゆるくなったからといって何かされては迷惑だ。 「雪村さんなら、自分の部屋に居ます。」 そして俺の方を見て日向は言った。 「さきほど土方さんから、雪村さんを外に連れて行ってやれとの命令が出ていましたが。」 なるほどなと思った。だから朝からあんなに雪村が俺を気にしていたのか。 「他に空いている奴はいないのか?」 「残念ながら西条さんにと…。」 思い切り溜息が吐きたくなった。わかったと適当に返事を返して、俺は道場を出た。 雪村がいるであろう部屋へと歩く。襖の前に立ち、雪村と名を呼んだ。 「西条さん、ですか?」 少し脅えているようにこちらを見ている雪村に手を差し出した。 「外に行くんだろ?」 手を取って立たせてやった。すると今度は驚いたように俺をみた。ころころと表情が変わる雪村に少し可笑しく思った。 「あの、西条さん。」 「ん?」 「お仕事、大丈夫ですか?」 「今のところ、暇だから付き合ってやるよ。」 嬉しそうに笑う雪村を見て、少しなら付き合ってやるのも悪くないかなと思った。 2010 12 22 お待たせしてごめんなさい! 千鶴と慧、この二人と絡ませたかった。 だが、千鶴には刹が女だということは当分言いたくないと言う← まぁ、雪子さん。頑張ってください。 芹 - 9 -
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