通りゃんせ | ナノ



八木さん宅で美味しいおむすびをひとついただき、それを米ひとつ残さず食べると私は少しの間荷物を預かってもらい家を出た。

少し歩けば門について、とりあえず立ってた人に声をかけると 待ってた と言われた。


「平助が言うより普通、かな。」


「…はあ、」


曖昧な返事をすると 名前は? とイケメンに聞かれる。


「糸川梓って言います。」


「僕は沖田総司。どうぞよろしく。」


「……はぁ、」


………。
誰だひらめ顔とか言ったやつぅぅううう!!今なら私の平手が火を噴くぜ!!……嘘ですごめんなさい調子にのりました。そんな度胸ないんです。学校でもびびりで有名だったんです。トイレから出たのに驚かされてちびりそうになったりとかさ…。嫌な思い出。


「えっと、私はどうしたら…。」


「土方さんは不法入国の外国の人だったら、とか言ってたけど…。どこから見ても日本人だよね。」


「いや、日本人なんです。」


彼は私を上から下まで見ていたのだが言葉を聞いて少し笑った。


「平助が不思議な服着てたって言ってたけど?」


「ああ…八木さんの奥さんからいただいたんです。…因みに平助って?」


淡い花柄のピンク色の着物を見て私は言う。


「まあ、わかるよ。さ、行こうか。」


彼はぐい、と私の手を引っ張りすたすた歩いていく。玄関でこれまたいただいた下駄を慌てて脱ぐとからん、と音を立てた。


と、いうか。なんか腰にぶら下がってる…。いや、刀だな。…………。え、いや…まあ幕末なんだし刀は仕方ないけどさ。というかここに生きる人は幕末とか知らないのか。そりゃそうだ。終わって明治…だっけ、とにかく次の時代が来たから幕末とか言われるようになったわけだし。あれだよね、薩長戦争!てきなのなかった?いや、どうだろ。西郷さんてきなさ。…私は小学生か馬鹿!!


「はい、ここ。」


止まったのは中から人の気配がある一室の前。沖田さんは微笑んで私を見た。


「………。」


「……。」


「え、ついて来てくれないんですか?」


「僕も入るよ。組長だからね。」


「組長って、偉い人ですか?」


「それなりにね。なんでもいいから、ほら。」


沖田さんは顎でくい、と目の前の襖を指す。何か妬ましいことがあるわけではないがこの後ろでいかにも私の反応が楽しみですな人より先に入るのはいただけない。と、いうより今は私のこの冷静さとのんびりさを讃えてほしい。はい、拍手!ぱちぱち…誰か合いの手くださーい。



「…よし、」


数分たって襖に手をかけるとそれは私が横にする前に先に開いた。


「ひぃっ!」


「うわっ!」


思わず後ろに下がってしまうと沖田さんにぼすん、と受け止められた。


「もー何やってるのさ平助くん。」


「こっちの台詞だろ!いつまでたっても二人とも入ってこないし…。」


「僕はこの子が土方さんを見てどんな反応をするか見たかっただけだよ。」


平助…。よく出る名前だな。とりあえず沖田さんに頭を下げて自分で立つと平助さんに謝られた。非常に申し訳ない。


「おい、さっさと入れ。」


あ、鬼だ。鬼がいらっしゃる。メイデイ!メイデイ!あ、なんか違う!









「ハジメマシテ。糸川梓です。昨晩はありがとうございました。」


座布団に正座をして頭を下げると鬼さんの隣に座ってらっしゃる人に頭をあげてくれと言われた。


「あー…、まず君の事情を聞かせてもらいたい。昨日平助に聞かされた話では随分と酷い様子だったようだが…。」


ぱっ、と条件反射で平助さんを見てぱっ、と床に視線を戻す。あれが藤堂さん…。というかイケメンばっかりで…怖さ倍増みたいな…。


「…それは、服装ですか?それともあんな場所で寝ていたことですか?」


隣の紫の着物を着た人は 両方だ と言った。あんな場所で、と言うのは非常にデリケートな問題になる。と、いうか無意識に殴られていたのかさっきから背中と肩が痛い。八木さんに着せられてたから体を見る暇がなかったんだよなー。


「…えっと、とりあえず不法入国者、ではないです。絶対に。日本人です。服装は…、まあ…はい。昨日の夜は……夜、は…。」


思い出して思わず身震いした。


「夜は、まあ…色々あって放置、みたいな。」


だからそれを言えって言われてるのはわかってるんです。でも今の時代レイプってなんて言うの…。それにレイプされました、てきなことを沢山の男の中で言うのもまた拷問だ。

いや、でも言わなきゃな…。レイプ、レイプ…あ、強姦か。……生々しい。


「…すみません。人払いしてくれるならお話します。」


私が言うと鬼さんが眉間にシワを寄せた。


「あ、いや…別に何かしようって訳でもなくて。ただ、これだけ人がいるのは……。」


私が最後の言葉をごにょごにょと言うと目の前の優しい人は トシ と横の紫の鬼さんに言った。トシがあだ名ということは土方歳三か!!…多分。と、いうか名前を勝手に言って怪しまれないようにしなきゃ。と言っても隊士では沖田さんしか知らないけど。あと、藤堂平助さん。


「人払いはした。これで話してもらえるかな。」


目の前の優しい人は言った。どうやら自分が考えている間にみんな出て行ってくれたらしい。


改めて部屋を見ると結構な広さの部屋である。


「…私、実は凄く遠いところから来たんです。」


さすがに 多分未来から来ました なんて言えないから遠いところに変換。間違いではないはず、うん。


「異国のことか?」


「あ、違います。異国、じゃないんです。私は日本生まれ日本育ちで異国の言葉はわかりませんし…。あの服装については…ですね。…特に他意も事情もないのでなんとも…。」


はあ、と紫さんはため息を吐いた。


「昨晩は何故あんな所にいた。」


「別に居たくていたわけじゃないんです。でも、帰る場所もなくて…町をさ迷ってたら三人の浪士に襲われて…。あのまま放置です。」


二人とも事情を理解してくれたらしい。強姦とか言いたくないもんね。


「帰る場所がないっていうのは?」


「あ、はい。帰る場所がないんです。」


私が言うと一瞬沈黙が訪れた。ま、まずい。何か言ったか…?


「い、今は八木さん宅に荷物は置いてますけど直ぐに出て行きますし…ここの方にも八木さんにも迷惑は…かけませんから。」


「宛ては……?」


紫さんが言う。


「宛ては、あるわけではないですけど。人間、やる気になればなんとかなるんです。」


なるべく紫さんを見て言った。改めて見る彼はイケメンだった。


「なあ、トシ。この子をここに置いてはくれないか。」


「「は?」」


私と紫さんはこの部屋にいるもう一人の人物を見た。確かにさっきから喋らなかったけど…。


「…近藤さん、」


「女子一人をほうり出すわけにもいかんだろう。また浪士に襲われてはどうする。」


待ってくれと言いたげな紫さんに近藤さんはついには頭を下げそうな勢いだ。近藤勇。局長。確か…娘がいた、はず。


私はまるで額縁からその光景を覗いているようだった。




0211


我ながらいい加減。近藤さんは娘さんがいたはず。多分。多分が主人公の口癖。多分。

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