通りゃんせ | ナノ



目が覚めるとそこには華やかに着飾った雪村さんがいた。

「……なにごと、」

口に手をあてたまま呟くように言った。あぁ、確実なる飲み過ぎだ。そのうち雪村さんは三馬鹿の二人に弄られ、部屋を出ていってしまった。

「…すみません、斎藤さん。飲み物いただけますか?お酒以外。」

寝転んだ青白い顔の女で申し訳ないです。斎藤さんは私に大丈夫かと言いながらお茶を差し出してくれた。

体制を起こし、ぐびぐびと飲むと息を吐く。目の前では三馬鹿と呼ばれる彼らが何かを始めている。

「酔いは醒めたか?」

「あー…少しだけ、ですかね。…さて、私も何かいただこうかな。」

なんだかお腹すいてきた。定位置に戻ると美味しそうなおかずに手をつける。平成の料亭料理とまではいかないがどれも美しく飾られ、食べることを迷ってしまうが、梓は気にせずお腹を満たす。

「……、」

昔、小学校の修学旅行が広島だった。そこのホテルはたくさん美味しそうな料理が出たが、私はお腹が痛くて食事どころじゃなかったのだ。中学生のときはものすごく美味しいもの食べたけど…。あぁ、ここに来てこんな飾りっ気のあるものは初めてだ……。梓は今までの平成での食事を思い返しながら今に感謝した。




***




翌朝はとんでもない二日酔いだった。なんなんだと呟きながら頭まで布団を被った。起きたくない。でも太陽が眩しい。頭痛い。最悪だ。

そーっと布団から顔を出して襖越しにあるだろう太陽を睨んだ。誰だ朝を連れてきた奴は、と悪態を吐きながら梓は着替えだした。


「何か違うのが着たいなー…。」


呟きながら布団を畳んでいく。このあとで顔を洗ってからは大抵藤堂さんを起こさなければならないのだ。
布団をよっこいせと持つと押し入れに突っ込む。と、中でごとりと何かが倒れる音がした。

「ん?」

手を奥まで入れるとそれに届く。
あぁ久しぶりな感触だ。

触ることをやめた、現代の私の唯一の持ち物。

かばんや体操服はこの時代にはありえない繊維やらで出来ているのだろう。ミシンなんかないからこんな形の服を作るのも大変だろうし…。

体操服を広げ、臭いを嗅ぐとそれは異臭がした。当たり前だ。長い月日を放置していたのだから。いつの間にか自分が身につけるものはこの時代に馴染んだものになっていた。

梓はかばんを中身ごと抱きしめるとその感触を堪能した。それからいつも帯に挟むように決めた煙管を取り出した。随分前のものだから鍍金ははげ、今では使うことができるのかわからない。もしかしたら使用したときにどうにかなるかもしれない。
そんなことを考えるが梓にはこれを使用する機会はなくその気もない。


今はもう電源の付かない鉄の塊、こちらでは未知の素材を使った洋服。もう梓には必要ないものだ。
そうだ、今度非番が貰えたときには少し行ったところにある裏山にこれを埋めようか。もし、私が埋めたなら未来ではどのように騒がれるのだろう。


過去から現代の異物が!


梓は想像して頭を振った。苦笑してから考えを改める。屯所から少し離れた場所で燃やそう。携帯なんかは燃やすと有害な物質が出るかもしれないが仕方ない。


梓は高校生だった幼い自分を懐かしく感じた。今でもこの瞬間が夢なのではないかと思うことがよくある。だが、ここに生きる彼らに名前を呼ばれ、必要とされる度に私はここにいるのだと実感できる。それが、生き甲斐だった。生き甲斐なのです。



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