うつろになる意識の中、話を聞いていた。横にいる藤堂さんの手の温もりを背中に感じていた。 彼、原田さんはしばらく考えた後に雪村さんを見た。 「千鶴、お前、あの晩、どこかに出かけなかったか?」 「えっ……?」 いきなりの問いかけに戸惑いを隠せないのも当たり前だ。 「出かけてませんけど……。どうしてですか?」 「本当に、あの夜は、外出してねえんだな?」 「その晩は私と一緒に朝食の仕込みをしましたよ。」 少し小さく挙手をしながら言うと原田さんが頷いた。ね、と雪村さんに相槌を打つように言うと彼女も頷いた。 彼はまた難しい顔になる。 「おい、どうしたんだ?」 永倉さんの問いに顔をあげないまま、原田さんは小さな声で呟き始める、辺りの賑やかな声が嫌に響いた。 「……見間違いであってくれりゃいいんだが、あの晩は月も出てなくて暗かったからなぁ。だけどよ、あれだけ近くで見たんだ。絶対に間違うはずがねえ……。」 「あの…、原田さん?言ってる意味が……、」 心配になったのか雪村さんが気付かうような音色で戸惑いながらも尋ねた。彼はようやく顔を上げれば、雪村さんを真っすぐに見た。 「いや、実はだな…。立て札を引っこ抜こうとした土佐藩士を取り囲んだ時お前によく似た顔の女に邪魔されたせいで包囲網が崩れちまったんだ。」 えっ、と雪村さんが驚きと困惑の声を上げた。その場は水を打ったように静まり返る。彼女によく似た、女…? 「ええと……まあ、そんなときもある!とりあえず今日は左之のおごりだ!朝まで飲もうぜ!」 「さ、賛成!今日は限界に挑戦してやるぜ!」 永倉さんと藤堂さんが慌てて場をとりなした。そのお陰で広間はまた賑やかになる。 私まで酒を勧められる。飲む、飲む、飲む。そんな中、考える。そういえば随分と前に藤堂さんたちが助けた南雲薫という女性…。彼女は雪村さんにそっくりだったとか。というか南雲薫…なんか聞いたことのある……。 「あぁっ!」 私は無意識に飛び上がる。 南雲薫、あれだ…私に銃を渡した…。 「あー……、頭痛い。」 私はまたぐてんと横になる。 「飲ませすぎなんだよ、平助!」 「だって梓って渡したら全部飲んでくれるから気分よくってさー…。」 「大丈夫かー?」 永倉さんにぐわんぐわんと揺さぶられる。 「待って。」 私の言葉にぴたりと揺らす腕が止まった。 「…………吐きそ。」 「はぁ!?どんだけ弱いんだよっ!」 「藤堂さん五月蝿い。頭が揺れてます。…あぁぁぁぁあああぁぁぁああ。」 頭を押さえながら転がる。 いつの間にか意識は夢の彼方。 南雲薫、一体あの子の性別はどっちなんだ……? 「…う、」 吐き気で目が覚めた。 0729 戻る |