その年の暮れ、近藤さん達は幕府から長州藩への訊問使に随行した。しかし、長州藩はこれに応じず翌年の夏には第二次長州征伐が始まる。 慶応二年六月 歴史は、もうあまり思い出せない。だが、沖田さんが病を患うことは覚えているしその他の重要な言葉は覚えている。 「あら、お出かけですか?」 「ん?あぁ…。」 門から出て行こうとするいつもの三人。 「どちらに?」 「あー…、」 ちらり、永倉さんを見る二人。ああ、飲みに行くのか。私は納得すると頷いた。 「ほどほどになさってくださいね。」 「悪いな。」 「夕飯までには帰るよ。」 気まずそうな二人と不機嫌そうな永倉さんを見送った。 「……さて、」 振っていた手を下ろすと箒を両手で持つ。 やるか、と内心呟き掃除を開始する。六月でも既に少し暑い。特に今日は。 手早く掃除をするとごみを集め、処理する。箒を終い、身支度を調えると私は尾崎くんの部屋に出向く。 「尾崎くん。」 「梓ちゃん。どうかした?」 稽古の休憩中だったのか彼は汗を拭きながら言った。 「今から、仕立てて貰ってる浴衣を取りに行かなくちゃいけないの。」 「そっか。気をつけてな。」 「うん。それでね、お願いなんだけど私が遅かったら食事の用意しててくれないかしら。私、買い物もしなくちゃいけなくて…。」 「なんだ、それくらいならいいよ。何人かとやるし。」 彼は言った。 「ありがとう。何か甘い物も買ってくるから期待してて。」 彼は笑った。爽やかだな…。 「貴方の髪紐も買って来てあげる。」 尾崎くんは自分の紐を触り、その細さに苦笑した。 * * * 「はい、ありがとうございます。」 「こちらこそ。」 受け取った浴衣は綺麗に仕上がっていた。薄い紫にきらきらと花が散りばめられたそれなりの上物である。 私が給金を使うことはそんなにない。お酒は勧められなければ飲まないし、甘味だって積極的に購入しない。行くなら、団子屋くらいである。だがそれも最近はなかなか行けてない。時間さえあればな…。 うなだれながら下駄も購入。足にピッタリな鼻緒が鮮やかな桃色のそれ。あと簪も。 「……。」 風呂敷にパンパンに詰められたそれら。 私は乙女かっ! 「…たまには、ね。」 呟き、笑顔になった。買い物はいつになっても楽しいものである。 その後、尾崎くんの髪紐にご褒美の甘味。あと、保存用のお酒。そして買い物をしているうちに日は暮れて行く。 私が屯所に帰ったのは夕日が傾き出したとき。 「あら、土方さん?」 少し速めに動かしていた足を止めた。 「買い物か?」 「はい。浴衣が仕上がってたんで…。」 「そうか。」 土方さんは少しだけ表情を和らげた。 「じゃあ、私食事の支度があるので。」 「ああ、引き止めて悪かったな。」 「いいえ。」 私は彼に頭を下げるとすぐに勝手場に駆けて行った。 「尾崎くーん?」 「おかえり。」 「ええ。皆さんもありがとうございます。すぐに変わりますね。よかったらこれ、食べてくださいな。」 尾崎くんを含め彼の周りは私の出した甘味に嬉しそうに手を出した。 私は微笑むとすぐに戻るからと部屋に戻った。 0723 戻る |