はあ、はあ…。私は縁側から身を乗り出していた。 「…ぅ、」 どうしよう。酷い吐き気がする。なんで、どうして。見上げた先の夜の明かりが怖かった。一人が、怖かった。いや、一人は怖くない。ただ、千鶴ちゃんはここのことを私より知っていて、彼女は守って貰える。そのことに酷く不快感を覚えてしまったのだ。 「お願い、止まって…。」 ぼたぼたと地面を濡らす涙。吐きたくても吐けない不快感。 誰かに助けてほしくても誰を呼べばいいのかわからない。いや、呼べないのだ。隊士の誰かを呼んだって、きっと女であることを考慮され千鶴ちゃんが私の面倒を見ることになるのだろう。それは避けたい。 「……っ、誰か。」 縁側に手を付きながら小さく、何度も何度もその言葉を呟いた。 *** 「お前、」 ば、と顔を上げた。 「……千鶴、ちゃん?」 洋装と和装を合わせた彼は不愉快だと眉間にシワを寄せた。 「…違う、」 私の体からあからさまに力が抜けて行く。よかった、彼女じゃない。彼女はこんな服装をしない。彼女はお前なんて言わない。彼女は、彼女は、彼女…、は……。 「貴方は、誰?」 「………南雲、薫。薫だよ。」 彼は至って冷静な表情で言った。 「薫、くん?」 「好きに呼べばいい。」 「…貴方、どうしてここにいるの。」 「お前に、会いに来たんだ。」 彼はそう言って一歩踏み出した。 「……変ね。私なんかに会ったって何もないのに。」 「………受け取れ。」 彼が何かを懐から出すから私は慌ててそれを手で受けてしまう。ずし、とした重さにびっくりする。 「……これ、は?」 すり、すり、と重たいそれを撫でる。 「………銃。」 鉄の形でその存在がわかり、ぞわりと産毛が逆立つ。暗くて彼がよく見えないが先程よりは見える。月明かりに照らされたその顔は、彼女にそっくり。でも彼は男の子だ。 どうして彼が、私に銃を……。 「その銃は六発弾が入ってある。」 「え、」 「お守りに持っときなよ。そして…使いたくなったら使うといい。」 彼の口が横に歪む。いびつな、笑顔。 「お前はここが、あいつが嫌になったら感情通りにその引き金を引けばいい。…その銃、何に使うべきかわかるね。」 私は手の重みを見つめた。 「どうして、私に…?」 彼の言わんとしていることには気づいていた。 「きまってる。お前が1番、あいつに近くて信頼されている。でも、お前は…」 千鶴が嫌いだから。そうだろう?糸川梓。 次の日、目覚めると体調は治っていた。私の手には、鉄がしっかり握られていた。 0628 戻る |