最後の恋愛は17歳。大学生だった彼に恋をした。家庭教師の先生とかそんな素晴らしいシチュエーションもなくただただ母校に来ていた彼を好きになった。 「梓は進路、どうするんだ?」 「え、進路?ん〜……お嫁さん、とか?」 ちらりと彼を見上げると彼は私の頭を撫でて笑った。 「お前が卒業したらな。」 世界で一番の幸せ者だと浮かれた若い私。結局、彼の浮気でだめになって終わり。恋って、ほんと怖い。 * * * 「…………。」 「うわ…!ご、ごめん!大丈夫か!?」 藤堂さんの声が近寄って来る。ばちり、目を開くと視界は薄汚れたタオル地の白。 「お前ら何やってんだよ!っと、悪いな、梓……。」 す、と自分で白を避けると現れたのはいつもの広間の天井だった。 起き上がろうとすれば背中と頭が痛みを訴えた。背中の痛みにゆっくり起き上がると原田さんに支えられた。 「大丈夫か…?すごい音が聞こえたんだが…。」 「…平気です。」 私は自分の顔が雑巾の水で湿っているのに酷く不快感を覚えた。まったく…。 「藤堂さん、これにこりたらしっかり掃除してくださいね。…永倉さんも。」 「悪いな…。」 二人はばつが悪そうに謝った。雑巾で掃除をしていたところを彼ら二人は何故か投げあいに。うまく私の顔にヒットしたそれは私を倒れさせた。するのは別にいいが、私に被害が来るのはやめてほしい。おかげで頭と背中が痛くてたまらない。 「…じゃあ、私勝手場で夕餉の仕度するんで。………しっっかり掃除してくださいよ。」 頷く二人を見て、頭を摩りながらそこを出た。 何故隊士、ましてや幹部までが掃除しているかというと、医者である松本先生が、隊士たちの体調の悪さは屋敷の不衛生さにあると指摘したからだ。確かに、この屋敷になってから掃除の範囲は広まったし…。こう言うのも仕方ない。 勝手場についた私は夕餉の仕度を始める。今日はみんな掃除だから勝手場に用はないし、手伝ってくれる人たちはいない。勝手場を弄られるのはあまり好きではないため、私はここだけはどこより小まめに掃除していた。 「……さて、」 今日の献立を頭から引っ張り出し、私は調理に取り掛かった。 「………あ、手ぬぐいがない。」 も〜…、誰か弄ったな!!と、思いながら自室に戻った。 「あった、」 私は手ぬぐいを帯に挟み込むと静かに廊下を歩き出す。 すると、小さく土方さんの声を聞いた。 「…珍しい、あの人が外を歩くなんて。」 私はなんとなくそちらに向かう。お客様なら部屋を用意したほうがいいし…お茶の準備も。あ、でもお茶の場所まで弄られていたらどうしよう…。 「昼間っから何しに来た?女を口説くにはまだ早い時間だぜ?」 「こいつに近づくんじゃねえ!」 原田さんに、藤堂さん。二人の鮮明な声を聞いた。一体、何がどうなって…。喧嘩!?お客様と!? 「原田さん……、平助君も!」 ……。 心の熱がすー、っと下がっていった。 「庭掃除にしては切羽詰まった声が聞こえたからな。」 「千鶴、大丈夫か?怪我してない?」 平助くんが刀を抜く音が聞こえた。お客様、じゃない。敵……? でも、千鶴ちゃんに平気かって聞くってことは千鶴ちゃんに近づこうとしてる敵がいるわけで…。頭の中でパズルが埋まる。 「…どうして、」 ぽつり、無意識に呟きはっと口を塞ぐ。そ、と彼らを見ると背中を向けた彼らは相手と話し、私には気付かなかった。よかった。ほっとした。踵を帰そうと足を引くと敵であろう金髪の人と目が合った。綺麗、な…髪。赤い瞳が何より、印象深かった。 0627 戻る |