「千鶴ちゃん、昨日はごめんなさい。」 「い、いえ…!私こそ…。いつも無鉄砲な行動ばっかりで…。」 私が苦笑いすると千鶴ちゃんも笑った。 昨日は、どうやら大変だったらしい。 風間千景、天霧九寿、不知火匡という三人の人が城に来たとか…。私はあまり詳しくは聞けなかったが、尾崎くんたち隊士もあまり詳しくは教えられていないらしい。あまり、いい内容ではなく、どちらかというと新選組の彼らからしたら隠していたいこと。 だが私には気になることがあった。 沖田さんのこと。 血を吐く咳。そういえば労咳で亡くなったという彼。この時代では死病なんて言われるくらいの厄介な病である。私は、小さな頃に結核の予防接種を受けている。だから基本的には多分問題はない。そもそも彼の病状に勘繰りを入れてるのは私くらい。多分、土方さんたちは風邪だと思ってるはず。沖田さんは隠すのが上手いから。 …私が、うまくフォローしないと。 静かに意気込んだ。 *** 「残念ですが未だ情報は…。」 「そうですか…。」 梓の姉は、警察と交わすこの内容にうんざりしていた。いつだって情報はない。あってもそれはどこかの馬鹿が流したデマ。 主人のいない部屋、服、彼女の部屋は未だ何も変わらない。 受け取る人がいないまま、卒業証書は仕舞われている。 母親は精神面での病を患った。父も相当なストレスらしく、成果のでない警察を放置し、独自に走り回っている。かく言う私は、ただただ一人警察に聞くだけ。 「お母さん、」 がらがらと病室を開く。 「あら、いらっしゃい。」 布団に入っていた母はすぐに椅子を用意してくれた。 「ありがとう。あ、そうだ。お菓子持って来たから。」 「まあ、美味しそう!」 母が喜ぶ姿を見ながらいつ話を切り出すか悩む。母は持って来たロールケーキに包丁を入れていく。 「おかあ、さん。」 「何?」 「梓、まだ…何もわからないって。」 「……ああ!そうだわ、貴方に聞いてほしいことがあったの!」 母はテレビの話をした。俳優さんが素敵で、喋りもできて、スタイルもよくて。羨ましいわ。私も男の子が一人くらい欲しかったわ〜。 「……どうかした?」 「なんでも、ないよ…。」 ぐず、と母に気付かれないように鼻を啜った。 「あ!お母さん、私このあと用事あるの忘れてた!」 「やっだ!も〜、用事があるならこんなとこ来てる場合じゃないでしょ〜?」 「ごめん、ごめん!じゃあ私行くね!」 「ええ、今日はありがとう。ロールケーキもね。」 母に笑って手を振ると直ぐさま部屋を出た。 「…糸川さん大丈夫ですか?」 ナースににっこりと笑い、歩き出す。涙が止まらなかった。 「うあぁーん。」 ロビーで子供が泣いていた。そこに母親が駆け寄る。 「私も、大声で泣きたいな。」 皮肉に笑うと病院を出た。 病院から出ると携帯を手に取る。 「あ?お父さん?私だけど。仕事中にごめんね。」 『あぁ…どうかしたか?』 「…もう、やめよ。」 『何を?』 「梓だよ。普通に、戻ろ。」 『お前、何を馬鹿なこと…。』 「もういいじゃない。何年も操作協力してくれてる警察がああなんだよ。母さんはあんなだし…。もう、私も…つか、疲れたよ…。」 ぐずぐずと鼻を鳴らした。 「戻ろう。普通の家庭に。引っ越しでもして、普通に、普通に戻ろ。もう、いいよね…?」 涙を流したら、雨が降って来た。 後日、警察の操作は遺族の希望により打ち切り。家も、引っ越した。空き家のその家には、来年から次の住人が住むことに決まった。 世界はこんなにも美しいのに、声1つ通りやしない。 0508 戻る |