「どうしよう…。どうしよ、どうしたら…!」 未だかつてない経験だった。ぽろりと出た自分でもわからなかった本音。門はいつの間にか静まり、皆が出て行ったことを示していた。 「……あ、あぁ…。」 私の口からは声にならない間抜けな声が漏れて、ごくりと喉にたまった唾液を飲み込んだ。 「……最悪だ。」 パタパタと着物が乱れるのも気にせずに逃げ、後悔する。もしかしたら私に後悔なんてする資格はないのかもしれない。 刀を持てる彼女。力がある。私にはない。あの子が役立つに決まってる。 「梓ちゃん?」 後ろからかけられた声にどきりと心臓がはねた。 「あ、沖田さん…。」 何かあった?と優しく聞きながら近付く彼だが正直あっちに行ってほしい。今は何もほしくないのだ。 ……あれ? そういえば…私、いつからこんなひどい女になったっけ? 平成では喧嘩なんてしなくて、むしろ誰かに悪意とか…そういった感情もあまりなくて…。いつも喧嘩をする子の仲介に入れられていた気がする。親からも手のかからない子だと言われ、彼氏からも梓はもっと甘えていいんだよと言われ、友達には悩み事がなさそうだと言われて。姉からは…姉、からは。 梓のそういうとこ、私は好きだけどな〜。 「……あ、あぁ…。」 姉が好きだと言った私の性格。それを。私は、あんなにも綺麗な子に悪意を向けてしまった。 私は耳をふさぎながらしゃがみ込む。 「梓ちゃん!?」 沖田さんが背中を撫でる。酷く心地好い。 「…はぁ、っ。」 土の地面に涙がぽたぽたと落ちる。胃か、むかむかする。吐きそうだ。 「私、どうしよ。最低な、こと。あんなに綺麗な子なのに……私、私。」 涙がまだまだ溢れるから梓は顔を覆った。 「梓、ちゃん。」 知らぬ間に、沖田さんは私をぎゅーと抱きしめていた。 私の手は彼の背中に回っていた。 なんてみっともない。普段ならそう働くはずの思考だが、今はただ、誰かの温もりが欲しかった。 姉の優しく、私を救うはずだった言葉が、今じゃこれだ。 私は、なんて愚かな女なのだろう。 0501 戻る |