「千鶴ちゃん……?」 「今から巡察なんだってよ。」 「そうなんですか…。」 隣で昼間から酒を煽る永倉さんを尻目に門藤堂さんの隊と出て行った彼女を見た。 梓は、彼女からちょくちょく外出させてもらっているとは聞いていた。だが巡察と聞いたときは少なからず驚いた。何が彼女をここに縛り付けるのか、色々と裏がありそうではあるも梓は何も言わなかった。新選組でその存在を詳しく説明されていない彼女についてを聞くのは可笑しいと思っているからだ。いや、可笑しいではない。不自然なのだ。 「永倉さん、飲み過ぎには気を付けてくださいね。夜のお酒がなくなりますから。」 「お、そりゃあまずいな…。」 彼に少し笑うと梓はいつものように勝手場へ向かった。 *** 「南雲、薫さん?」 巡察から帰って来た藤堂さん、それから同じ時間帯に巡察をしていた沖田さんから聞かされたその女性の話。まず思ったのは綺麗な名前だな、ということ。 「そう!浪士に絡まれてたのをたまたま助けたんだけど…千鶴ちゃんと瓜二つの子でね。あの子に女物の着物を着せたら絶対そっくりだって話をしてたんだ。」 「えー。俺はそんなに似てないと思うけどなー。」 藤堂さんと沖田さん、どちらもその人を見ているのだから私はどちらを信じていいのか困る。 「私、自分に似てる人って見たことないです。」 「あ、それ俺もー。」 「僕もだよ。むしろ、見たことある人のほうが珍しいんじゃない?」 楽しそうに話す沖田さんを見てたら、そこそこのレベルじゃなくて本気で似てると思ったんだろうということが伺えた。 次の日、私は広間の隅に居た。そんな広間で近藤さんの堂々とした声が響く。 「皆も、徳川第十四代将軍・徳川家茂公が、上洛されるという話は聞き及んでいると思う。その上洛に伴い公が二条城に入られるまで、新選組総力をもって警護の任に当たるべし………、との要請を受けた!」 事態を理解した者たちが次々と歓声をあげる。やはりこのように大きな仕事は嬉しいのかもしれない。 「ふん……池田屋や禁門の変の件を見て、さすがのお偉方も、俺らの働きを認めざるを得なかったんだろうよ。」 「警護中は文字通りの意味で、僕らの刀に国の行く末がかかってる……なんてね。」 冗談めかして言う沖田さん。土方さんも皮肉のように口を叩くがその顔は穏やかだ。 「…………あ、」 私は小さく声を出すと、ざわめく隊士の一人に言う。 「私、勝手場に用事残してるんで失礼します。」 「あ、はい。」 静かに後ろの襖から傍を離れると梓は勝手場に向かった。 勝手場では三枚に下ろしてある魚が放置されている。 「……天日干しにしようかな。」 冗談めかして呟く。実際干す気なんかはない。梓は魚を片すと桶の水に浸かっている食器を洗い始める。 大事な話と言われていたが、言いたいことは聞いたしもういいだろう。いざとなれば、というか申し訳ないが後で尾崎くんに教えて貰えばいい。 梓は頭を切り替えると食器を洗うことに集中した。 0430 戻る |