夜、明日の朝の仕込みを終えて原始的なお風呂に入って、布団に潜り込んだ。でも出て行った人達が帰って来る気配はなくて。千鶴ちゃんだってもしかしたら戦っているのかもしれない。斎藤さんは大した戦いにはならないからって、千鶴ちゃんは守れるって言ったけど…。 私は眠れなくなり、上に一枚羽織ると障子を開けた。空にはもう見慣れた満天の目をつむりたくなるような星空と大きな月。現代の友達にも見せてあげたかったな…。 思いながらまだぼんやり冷たい風に体を震わせた。 *** 次の日。いつも通りのことをしていると京のどこかで火事がおきたと連絡が来た。火事、と言ってもここから煙はなかなか見えず、私からしたら他人事だった。 「沖田さん?」 「ん?あぁ…梓ちゃんか。」 彼は廊下に腰を下ろしながら日が沈み始めた空を見ていた。 「何してるんです?」 「ひなたぼっこだよ。」 「…もう夕暮れですけど。」 私も空を見る。オレンジ色の太陽が眩しくてすぐに目を逸らした。 「皆さん、なかなか帰って来ませんね。…晩御飯は必要でしょうか。」 「いらないと思うよ。長州の連中が火を放ったのが本当なら土方さんは逃がしたりしないだろうしね。」 「そうですか…。では後で食事をお持ちしますね。」 「ありがとう。」 私は彼の後ろを通り過ぎようとしたが、それは腕を掴まれたことにより叶わなかった。 「…沖田さん?」 「梓ちゃん、最近何かあった?」 「いいえ、特には…。」 そう、何もない。別に何もないはず。 沖田さんは目を細めたがすぐにいつものような笑みを浮かべて手を離した。 「そう。」 「ええ。では、これで……。」 少しお辞儀をしてから今度はちゃんと通り過ぎる。沖田さん、何が言いたかったんだろう。私は別に変わってなんかいない。何か、なんてありはしない。そうでしょう、梓。 ぎゅ、といつの間にか冷え切った自分の手を握った。 その後、多少の怪我人はいるものの新選組の隊士や千鶴ちゃんもきちんと帰って来て、この事件は幕を下ろした。 後に禁門の変と呼ばれる長州が朝敵になったこの事件を、私は薄れてきていた現代の記憶で知っていた気がした。 0304 戻る |