元治元年六月 京の夏は反則的な暑さだ。地球温暖化が進んでいたあの頃よりもからっとした暑さで、おまけに高い建前が少ないため、太陽を避ける場所に困る。 「大丈夫ですか〜?」 多少呆れながらも沢山の腹痛で倒れている隊士たちの面倒を見る。 「どーせ、昨日も夜更かししてたんですよね?尾崎くん?」 「あは、いや…うん。正確。」 仲良しの尾崎くんは死にそうな顔で笑った。 「というかさ…あれだ、昨日の具材…やっぱりどれか腐ってたんだって。」 「…腐り、かけ?」 「うわ……。」 「いやいや、でも昨日は私、魚しか焼いてないから知りませんよ。」 「うわー。勝手場は女の世界だろ…?」 「ここでは男の世界。…ほら、もう早く寝てしまいなさい。」 ぺち、と額を叩くと私は立ち上がる。 母ちゃんみてー と声がしたのでとりあえず襖を閉めてやった。 「……俺が悪かった。」 にっこり笑うと私は襖を開ける。襖を閉めるとたたでさえない風がさらにないのだ。………今日は一日中この作業だろうな…。 本来ならこの場は知識のある山崎さんがせっせと動いてくれてるはずなのだが最近はとある人物の捜査で出かけているらしい。あの元気な尾崎くんが寝込む腹痛なのだ。きっと生理痛に匹敵するのだろう。私はお腹に手をあて、ぞっとした。 うう、と度々上がる唸り声も納得だ。 「……はあ、」 *** 「……、」 夕日の眩しさに目を開く。どうやら自分は寝ていたらしい。部屋を見ると自室であることがわかった。 襖を開き、懐から出した手ぬぐいで汗を拭う。 「……庭が、」 庭が掃除されている。昨日から掃除はしていなかったが…。誰か心優しい人がやったんだろうな。助かる助かる。 その後いつものように夕飯を作る隊士の人たちの横で私は腹痛の隊士たちの雑炊を作る。するとそのうちの隊士の一人が今日は討ち入りなんだと嬉しそうに、そして緊張したように言った。 討ち入り…。改めて自分のいる環境を実感した。 「気をつけてくださいね。」 私の口からはこんな簡単な言葉しかでなかった。 *** 「梓ちゃん。」 夕飯を食べた後、討ち入りということで私もとくにすることはないのだが襖から顔を出した原田さんに呼ばれ部屋に足を踏み入れる。 「何か?」 「土方さんに紹介しとけって言われてな。」 原田さんはとあるポニーテールの女の子を呼んだ。袴はいてる…。あれ、男の子?いやいや、馬鹿梓。女の子だって。ポニーテールの女の子なんてこの時代になかなかいないから…。 「初めまして。私は糸川梓といいます。」 「は、初めまして。雪村千鶴といいます!」 「今新選組で捜索中の人物の娘でな…。」 「なるほど。お客様ですね。」 私は彼に言われようやく納得した。 久しぶりでもないが…女の子が傍にいるだけで私も嬉しくなる。やっぱり男所帯だと色々大変だしね。 「雪村さん、こっち。」 私は少し彼女の手をひいて外に出た。 「雪村さん、今までどうやって過ごしてきたの?」 「ずっと、部屋に……。」 雪村さんは緊張した様子。部屋に半年くらいいた、となると捜索中の人間は危険人物、もしくはそれなりの疑いがかかった人物なのだろうか…。 「私のことは自由に呼んでかまわないから。今まで大変だったでしょ?ここって男性しかいないから。」 苦笑すると彼女も同じように笑った。 「あと…原田さんも娘って言ってたけど袴はいてるし……ちゃんと女の子、よね?」 「…やっぱり、わかりやすいですか?」 彼女は自分を見下ろした。この様子じゃ感づかれたことがあるらしい。 「同性ですもの。」 彼女はそれに納得した。かわいいな〜。後輩を思い出す。 「あ、じゃあ私そろそろ行きますね。」 「……行くって?」 雪村さんは少し視線をさ迷わせた後 討ち入りに… と呟いた。 「…討ち入りって、」 「あ、別に私はただの伝令ですから!」 雪村さんは顔の前で手を振った。こんな女の子が血生臭い場面を見るのだろうか…。 「千鶴ちゃん、って呼んでいい?」 「はい。私も梓さんで、いいですか?」 「勿論。」 千鶴ちゃんは頭を下げると玄関に向かって行った。 「………さて。」 私は腹痛組のいる部屋へ足を進めた。 0223 千鶴ちゃんって外出できない間も食事の手伝いとかしてたよ、とかはスルー。 主人公の敬語なしを忘れないため千鶴ちゃんにはゆるーく。 戻る |