通りゃんせ | ナノ



文久三年十二月


寒くて寒くて私は身も心も凍り付くような毎日を過ごしていた。こっちに来て三度目の冬であるがこの寒さだけは未だ慣れないでいる。


今日も今日とてぐつぐつと味噌汁を作る。この作業とここの暮らしにももう慣れてしまった。



昨晩、幹部全員が出払うということがあり私は土方さんにどうしたのかと理由を聞くと彼は険しい顔つきで 今晩は外に出るな と言った。私はそれ以上は聞かなかった。聞いたところで私の望む答えは何もないと思ったからだ。





***




文久四年一月


お正月のお参りも済ませ、そろそろ雪が振るかな〜と思い、私はまたもや女性特有のあいつ…生理、いや月経というべきか。まあ、ともかく。私は一ヶ月に一度女に生まれて来たことを後悔するのである。


「何故私は女なんでしょうか原田さん。」


「いや、俺に聞かれてもな…。」


幹部のぶんの夕餉のお膳を並べながら言う。相変わらず腰は怠い。


「それにしても女って面倒な生き物ですよね…。どうして女が子供を産むだなんて決められてるんでしょう。」


「左之、俺はこれを聞くとなんだか洗脳されてるような気が…」


「洗脳だなんて永倉さん…。私は女の代表としての意見を殿方に言ってるだけですよ。」


梓がこうして話すのは今に始まったことではなかった。


「というかですね、私は多分気合いさえあれば男性だって子を産むことができると思うんですよね!」


いつにましても目をきらきらさせていう女性。一ヶ月に一度は言う現実逃避のこの言葉。最初は一人でブツブツ言っていたのだがどうにも一人は寂しくなったのだ。


「あ、そうだ聞いてください。先月この言葉を土方さんに言ったら私 今日はもう寝ろ って猫みたいに持ち上げられて自室にぽいですよ…。というか男性が女性に子を産むことを任せっきりだから進化しないんですよ。進化したら男性もきっと産めるはずです!」


どう思います!? と求められても返す言葉がない。だが梓自身、現実逃避を聞いてほしいだけであって返事を求めてはいないのだ。


「……あ、お客様お呼びしなくていいんですか?」


聞く体制に入っていた二人に梓は言う。


「…俺が行くとしよう。」


我関せずでいた斎藤さんは座布団から立ち上がると静かに広間を出て行った。


「じゃあ私もこれで失礼しますね。」


梓は頭を下げるとおぼんを片手に部屋を出た。



梓はお客様がどのような存在なのかを知らない。ただ、ただお客様がいることだけが伝えられている。ただの女中が会うのも変な話だし、梓は自分に伝えた土方さんが何も聞いてほしくなさそうだったので何も聞かなかったのだ。そこでもまた自分の望む答えはかえって来ないことを梓は何処かでわかっていたからだ。




「あら、藤堂さん?」


「あ、梓。」


梓は自分でも言葉遣いが綺麗になったということをここ数年で自覚した。 あら なんて以前はおふざけでしか言わなかった。そしてそんな言葉遣いももう癖である。


「ご飯できてますよ?今頃は永倉さんがお腹をすかしてると思います。」


「うげ、まじかよ…。とりあえず急ぐわ!じゃあな!」


藤堂さんはたったったっと速足で駆けて行った。多分お客様を呼びに行くのだろう。藤堂さんの後ろ姿に小さく笑い、私は一人勝手場へ足を進めた。



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