通りゃんせ | ナノ




妹が失踪してもう数ヶ月がたつ。いつものように高校に通う妹を朝見送った。夕方には 今日は友達とご飯食べてから帰りまーす。お母さんによろしくね。 なんてメールが来た。高校生だしよくあること。私は母に伝言を伝えた。

我が家の門限はとくにない。とりあえず帰って来ること。外泊はちゃんと言うことが決まり。でも私たち姉妹の暗黙の了解てきなもので22時や23時には帰ることが決まりになっていた。だがその日、妹は帰って来なかった。心配になった母が仲良しの友達に電話をした。そして学校帰りに遊んで一緒にご飯を食べた友達は 21時くらいに別れましたよ? と不安そうな声で言った。 彼氏と無断外泊じゃないの? とけろりと言った私に母や父も だといいんだけど… と納得いかない様子で言った。だが姉妹である私は今妹に彼氏がいるなんて聞いていなかった。 ま、隠したいこともあるか なんて気楽に思いつつ真面目な妹が無断外泊なんてするだろうかという疑念は消えることはなかった。


次の日は土曜日だった。どうせ ただいまー とか能天気な声を出して帰って来る。でも帰って来なかった。その土曜日の夜。やはり不安で仕方ない様子の親が警察に行った。私は家にいたほうがいいんだろうなと考えずっと家にいた。私の親は警察に捜査依頼を出したらしい。その次の日から捜査が始まった。警察に写真を渡し、この顔を見たらすぐに連絡してくださいと言った。実際パトロール程度の捜査だろうことはわかっていた。だが頼まずにはいられなかった。妹の友達も探してくれてるし、学校にも呼びかけた。だが妹は一ヶ月たっても見つからなかった。警察はようやく捜査に本腰をいれだした。うちの親が電信柱に貼った妹の顔が写った紙を見る度に私はどうしようもない喪失感に襲われた。

誘拐としてことが進められているが不思議なことに目撃情報がひとつもない。犯人はよほど用意周到だったのかなんなのか…。そしてそれから数ヶ月たった今でも妹の目撃者はいない。生きているかもわからない我が子。親を見るのが私は辛かった。気休めの言葉はかえって傷付けるだけだ。


そしてもうすぐであの子の卒業式。三年生で事故にあって一年留年している妹。また卒業式に出られないのかな……。



私のベッドの横の机には去年の正月に妹と撮った写真が飾ってある。

赤い振袖を二人して着ている。髪の短い私と違ってあの子は頭でおだんごにしている。


私はあの子をひと撫でしてから写真立てを伏せた。


私の頬に望まない涙が伝った。それは、決別の涙。





***








「梓ちゃん?」


梓はゆっくりと瞼をひらき、まだ眠たい頭で名前を呼ぶ人物を見る。


「沖田さん…。」


「随分眠っていたけど…いい夢は見れた?」


梓は微笑んだ。


「もう、会えないと思っていた姉に会えました。」


そして少女もまた、決別の涙を零す。


さようなら、私の―――



「…泣いてる?」


「ふふ、いいえ。どうして?…さ、そろそろご飯の準備をしましょうか。」


す、と立ち上がり少女は彼を通り過ぎる。




さようなら、私の世界。





綺麗事じゃなくて、ほんとにそう思った。




0220



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