通りゃんせ | ナノ



「あ、梓!」

「藤堂さん、どうかしました?」

昼餉も食べ終わり暇を持て余していると藤堂さんが私に走り寄って来た。


「いや、今から一緒に酒でも飲みに行かね?」


「お酒、ですか?」


ああ、そういえばこの時代は成人もはやいしお酒も飲めるのか…。


「私、お酒ってあまり飲んだことがないんですけど…それでいいなら。」


「いいっていいって!ま、とりあえず行こうぜ。」


彼は私の手をひいた。どの部屋で飲むんだろうと思っていればたどり着くのは玄関。

「……え?」


「ん?」


「どこに行くんですか?」


彼は 言ってなかったっけ と頭をかいてから私に行った。


「島原。」


「お、おぉ…。」


思わず引き攣った声がした。でも島原って大きな遊郭だよね。一度、行ってみたいかも。


「遊郭なんて行ったことないですから楽しみです。」


「あれ、梓ちゃんも行くのか?」


そう言いながら玄関を跨ぐと右の頭上から聞いたことのある声。


「あ、原田さん。…ダメ、ですか?」


「いや、俺は構わねえよ。」


「な!?梓ちゃんも行くのか……!?」


「下心で行く奴はああいう風に隠したがるんだよ。」


永倉さんは下心か〜。ま、男性だもん。


「原田さんと藤堂さんは違うんですか?」


「俺らは酒が飲みたいんだよ。」


「で、永倉さんは違うと。」


「なっ!?違うからな!!ったく、余計なこと言うなよな〜。」


「新ぱっつぁんは事実じゃんか!」


仲良さげに三人は話す。お酒友達、かな。それにみんな幹部だしね。


「でもよ、梓ちゃん仕事はいいのか?」


「大丈夫ですよ。今日はお休みですから。」


「そっか。」


「因みに、お二人さんはいつまで手を繋いでるんだ?」


私と藤堂さんは互いの手を見る。


「…………まあ。」


「………う、うわ!!」


藤堂さんはぱっ、と手を離す。


「うわって、お前…。」


「女の子と手ぇ繋いでたんだ。役得じゃねえか平助ちゃんよ〜。」


かわいそうに藤堂さん…。私はそこまで初じゃないからな〜。彼氏だっていたことはあるし。


「じゃ、行くか。」




***




遊郭はきらびやかだった。籠みたいな中に女性がいたりする場所もあった。まあ、彼らはその道は通らなかったが。


「お嬢さん、」


そんな中の一人に声をかけられた。少し離れた場所の女性だ。私は周りをキョロキョロと見てお嬢さんが自分であることを知る。


「どうかしましたか?」


「貴方、一人?」


少し駆け寄ると色っぽい女性にそう言われ私は首を振る。


「いいえ。今日は知り合いとお酒を飲みに。それより遊郭の女性は特徴のある言葉を使うって…。」


「あんたみたいな子に言ったってわからないでしょ?」


女性は笑った。お化粧が濃いけど多分綺麗な人。


「どうして声をかけてくださったんです?」


「売られに来たのかと思ったのよ。でもそうじゃないみたいね。」


「…はい、」


やっぱり売られる人もいるんだ。この時代には女性の人権なんて脆いものなのかもしれない。女性は私の手をにぎにぎと放したり握ったりしている。


「家事とかしてるの?」


「ええ。お仕事で。」


「そう。綺麗な手。」


「……お姉さんのほうが綺麗ですよ。」


私も手を握りかえした。お姉さんと一瞬視線が交わったがお姉さんはすっと目を明後日のほうへ向けた。


「呼んでるわよ。梓って貴方のことでしょ?」


「へ?」


雑音の中耳を澄ませれば確かに私を呼ぶ声がする。


「私、行かなきゃ。」


「お嬢さん、お土産に持って帰りなさい。」


そういって差し出された手には赤い紫色をした煙管。


「…ありがとう。」


受け取ったらまた手を握られる。多分、私は今彼女に同情している。泣きたくなったのは秘密。


「今度はお客としていらっしゃい。」


「…ええ。ありがとうお姉さん。」


握っていた手はあっけなく解け、私は後ろを振り返ることなく人ごみをぬけた。煙管を手にしっかり握って。


「原田さーん!」

ひらひら〜、と手を振ると彼と他の二人はいっせいに駆け寄って来た。


「お前な、女が一人でうろちょろしていい場所じゃねえんだからさ…。」


「ま、無事でよかったってことで。どうせここじゃ刀は抜けないから大した騒ぎにはならんだろうけどな。」


「あれ、お前煙管なんて持ってたっけ?」


藤堂さんが私の手を見る。


「いただいたんです。女性に。」



私は煙管を彼に見せて懐にしまった。


その後酒を飲んであまりの強さに私が二日酔いになったのは言うまでもない。


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