藤堂さんと買いに行った着物を着てぱたぱたと動き回る。藤堂さんにはこの前にようやく慣れた買い物で買ったお団子でお礼に行った。土方さんにもお礼しないと…。 ぎゅ、と冷たく濡れた服を桶から出す。どの季節でも長時間水を触るのは辛い。この時代での仕事で一番嫌なのは掃除より洗濯かもしれない。この時代の石鹸は高価なものだから石鹸変わりに炭とか…。エコだエコ。洗濯に使用した水は土にばらまいたり。肥料だ肥料。昔の人の知恵は凄い。 「あれ?梓じゃん。洗濯?」 「あ、藤堂さん。と、原田さん…でしたよね?」 藤堂さんの後ろにいる彼は頷いた。藤堂さんはあれからよく話かけてくれる。私が普通のこの時代の女の子だったなら普通に友達のように話したいものだ。 「精が出るな。」 「手伝おうか?」 二人はそれぞれのことを言いながら私を見る。 「大丈夫ですよ。これでおしまいですから。」 私は着物をばっ、と開くと竿に干す。桶の水は庭の端にまいた。 「なあなあ、今日の飯は?俺朝飯新ぱっつぁんに取られて全然食べれなかったんだよなー。」 「あいつのあの癖もここまでくると特技だな。」 私はキョトンとした。新ぱっつぁん、というのは多分永倉さんだ。 「永倉さんってそんなに食いしん坊な方なんですか?」 「食いしん坊で片付いたらいいくらいだ。」 原田さんは鼻で笑った。 「じゃあ今日は少し多めにしておきましょうか。」 「えー。新ぱっつぁんだけー?」 「藤堂さんは今日非番だから働いてませんよね?」 「いや、そーだけどさー。」 「諦めろ、平助。」 原田さんとこうして面と向かって話すのは初めてだ。緊張しないわけではないが何処か安心感のある人だ。 「今日はお魚を焼きたいと思ってるんです。今から市に行くんで手に入るかはわかりませんが。」 「そういえば最近魚食べてなかったよな〜。」 「あまりいいのがあがってなくて。ごめんなさい。」 「あ、別に謝ってほしいわけじゃないからさ!」 藤堂さんは顔の前でブンブンと手を振った。 「ふふ。私だってそうしてほしいんじゃないんですけどね。じゃ、行って来ます。」 二人に頭を下げて梓はその場を去る。 「…お、俺梓が声出して笑うの初めて見たかも。」 市から帰ると梓は勝手場に食材を運ぶ。 「尾崎くん、」 「ん?」 今週は料理担当の尾崎くんは仲が良い。穏和な性格が堪らなく癒しだ。 「今土方さんいらっしゃるかな。」 「ん〜。どうかな。俺にはよく…。どうかした?」 まあ確かに平隊士がいちいち居場所を知ってるのもおかしな話か。 「ううん。なんでもない。ありがとう。」 「いいよ。さ、お腹も空いてきたし…作っちゃおっか。」 へら、と尾崎くんは笑った。私も笑って食事の準備に取り掛かる。 土方さんには最近仲良くなった団子屋の同い年くらいのお嬢さんにいただいた団子をお礼に持って行こうとしてたんだけど…。 仕方ない。 ため息を吐きながら魚を開いていく。 「うわ、三枚に開くとか…。」 「へ?」 「いや、凄いなって。さすが女性。」 どうやら尾崎くんは魚を開くのが苦手らしい。まあ、確かに、難しい……?いや、そうでもないか。 尾崎くんはさっさと味噌汁を作りに離れて行った。 切った魚を塩で味をつける。この時代の塩は人工の食塩じゃないから美味しい。 「…明日は大根を千切りにして…あ、天日干しにしようかな。朝餉にはとりあえず沢庵引っ張りだして……。いや、白菜の漬物でもいいかも。」 頭に叩き込むためにぶつぶつと呟く。魚を焼きはじめると香ばしい臭いがした。 「ほんと、あの団子どうしよ。」 「団子がどうかしたのか?」 「ひゃっ!」 後ろからかけられた声に包丁をまな板に落とす。 「…うわ!」 まな板に目を移すと魚に突き刺さっていた。慌てて引っこ抜くと後ろを向く。 「わ、悪い。大丈夫か?」 藤堂曰く新ぱっつぁんの彼である。 「す、すいません。どうかしました?何か不手際でも…?」 永倉さんとは喋ったこともほとんどないから何を言われるのかドキドキしながら聞く。 「いや…、なんかぶつぶつ言ってるし団子、どうしようとかさ。」 「ああ、それは明日の献立をどうしようかと。あ、そうだ。土方さんどこにいらっしゃるかご存じですか?」 「土方さん…?」 「はい。着物を買っていただいたんです。」 彼は成る程な、と頷いた。 「土方さんなら自室にいると思うけど…。」 「そうですか。団子、嫌いですかね…?」 「貰ったもんを嫌って言うような人じゃねえはずだから安心していいと俺は思うけどな。」 永倉さんはにっと笑った。意外と普通。私はここの人たちに対して偏見が多いのかもしれない。 「ですよね、副長さんですもんね。ありがとうございます。」 私は永倉さんに頭を下げる。私の少し後ろで焦げはじめの魚を見て尾崎くんが慌てたのは言うまでもない。 数時間後。土方さんにお礼に行くと団子は嫌いじゃないらしく食べてくれた。なんだかんだで優しい人だな。 0215 戻る |