ぐつぐつと鍋で煮物を作る。現代の頃より少し薄味のそれを味見して私は沢山のお皿に均等にわけていく。 「梓ちゃん、できた?」 今日の料理当番の一人の尾崎くんが私に声をかけてくれた。 「はい。ばっちりです。」 最後のお皿にわけ終わると今度は幹部のお皿に。少し奥には永倉さんがいる。今日は彼も当番。多分、私は何かしらで見られている。怪しいことなんてしてないのにね。 ぎゅ、と手を握って膳に乗せて行く。 「さ、運んじゃいましょっか。」 尾崎くんに言い、煮物のほかにご飯などがのった素朴な平隊士たちの膳を運んでいく。今日は少しおかずが多いから大変だ。でもま、仕事だし。じゃないと生きてられない。 膳を運び終わると自分の部屋で食事をする。一人は、悲しい。だが慣れてしまった。家族と食べていた頃が懐かしい。 カチャ、とお箸を置いて無意識にお腹に触れる。生理、は…まだこない。どう、しようかな。どうしよ。少しぼーっとしたあと、私は勢いよく最後のみそ汁を飲み込んだ。 「梓…?いるか?」 襖の前に影ができる。どうやら私を呼んでいるらしい。 「いますよ。」 急いで襖を開けるとそこにはポニーテールの髪の毛。 「どうかしました?」 「いや、俺今日非番だからさ。よかったら着物買いに行かないか?」 「はい?」 私は頭をかく彼に間抜けな声を出した。 「はい?って…。だってさ、ずっとその着物じゃん。金なら土方さんにもらったから。」 藤堂さんは懐からちゃりちゃりとなるそれを取り出す。 「…でも、」 確かに私は八木さん宅の奥さんからもらったものしかない。夜はパジャマがわりに体操服。因みにはらはらしながら洗って部屋干しです。 「いいからいいから。ほら、膳返しに行くぞ。」 「え、待ってください…!」 私は膳をひょい、と持ち上げてさっさと行く彼を追った。こんなことなら平隊士さんに誘われたときに無理矢理一緒に食べとけばよかった。 *** 「……。」 私は着物の生地とにらめっこする。 「…白か、黒、もしくは赤。」 なんという三原色だろう。 「黄色、とかは?」 黄色の生地に目を向ける。ピンク色の花がひらひらと舞っていて色も淡く可愛らしい。 「……。」 私はその黄色ともう一つ候補の白にピンクや赤の花のそれに目を向ける。 でもさっき助言してくれた藤堂さんに従うべきかな…。 「決まったか?」 周りをキョロキョロとしていた彼が言った。 「迷ってます。」 「どれと?」 黄色と白を指差す。 「あー…。なんなら二つとも買ったらどうだ?」 「…いやいやいや。無駄遣いだからいいです。」 「おばちゃーん。これとこれ。」 呉服屋の店主はにっこり頷いた。…もう、仕方ない。 「あと下駄とかは?」 「いいんですか?」 彼はにっこり頷いた。 下駄は欲しいと思っていた。すぐに欲しいものは見つかりシンプルな赤い鼻緒のそれを購入した。 店主には 仕立てておくからまた三日後くらいに取りに来て と言われ下駄だけお持ち帰り。帰り際に早速履いたそれ。サイズもいい感じ。 「藤堂さん、ありがとうございます。」 「よかったな!」 「はい。」 平助は 敬語はやめないか とか 平助でいいよ とは言えなかった。それは彼女が何者かもわからないのもあるし、言ったって多分彼女は自分をそう呼ばないからである。 「…平助でいいよ。歳も、近いだろうし…。」 言葉を少し濁しながら勇気を出すが、梓は首を横に振って ありがとう とお礼だけ言った。 「なんで、駄目なんだよ。」 「新選組はもともと女人禁制だし…。誰か一人を特別扱いは嫌なんです。」 「名前を呼ぶのが特別?」 「…多分。でも、私は新選組にいても特に意味のない人間ですから。それによくわかんないですし。あまり、簡単に信用しようとしないでくださいね。」 平助は物悲しい気持ちを飲み込み、また無言で歩き出した。 戻る |