一歳企画 | ナノ
沖田は彼女の小さな手をいたく気に入っていた。
着物の裾から出ている真っ白な手。その綺麗な動きを見るのも好きだった。
そして顔に目線を向けると少し頬を染め、頭を下げる。
沖田はそんな彼女に手を振る。

「まあた見てんのかー、総司。」

自分の横に腰掛けた少年、平助に沖田はにこりと笑った。

「なんのこと?」

「うわ…。しらけんなよー!」

沖田はまた目を向ける。
やはり彼女はせわしなくパタパタと動き回っていた。

「ていうかさ、あの子あの店の看板娘なんだろ?」

「みたいだね。」

「みたいだねって、さっき手ぇ振ってたじゃん!知り合いなんだろ!?」


沖田は茶をすするだけで何も言わない。まさか、と平助は頭によぎったことに妙な表情を浮かべた。

「お、お前…まさか。」

「僕は彼女と話したことはないよ。」

「じゃ、じゃあどこを好きになったんだよ!」

「……しいていうなら、手。あとは、表情かな?」

「……そんな性癖みたいなのいらないんだよ!手ってなんだよ!」

五月蝿いなーと沖田が呟くと平助はまたおとなしく席についた。

「まあ、こうやってあの子の働く姿を見ることが僕の最近の楽しみなの。ほら、平助もうすぐ巡察だろ?帰んなよ。」

しっしっ、と追い払うような動作をすると平助は犬が尻尾を下げたようにしょんぼりとし手を振った。

「はやめに帰ってこいよー。」

沖田は手を振るともう一度茶を口に含む。たった数分話しただけだというのにもう冷めてしまった。

彼女は相変わらず客の相手をしている。
沖田は口元を少し緩めた。



***



その人は沖田総司さんというらしい。いつもうちの向かいの茶屋にいるとても素敵な常連さんだ。あそこのおばちゃんはもうきっと彼にメロンメロンなのだろう。最近客が多い。
そんな彼からよく視線を感じ始めたのは少し前のこと。
その日も彼は茶屋にいた。店主と少し話すと素敵な顔を笑顔にした。

「…素敵。」

そりゃあもうかわいらしい笑顔だった。え、男性にこの表情与えていいの?神様、性別間違えちゃってるよ!といいたくなるくらいに素敵でかわいらしい笑顔だった。

「向かいの茶屋の沖田さんってかっこいいわよねー。」

沖田さんは私の店でも人気だ。

「私がもう少し若かったらなー。あっははは!」

私より年上の女性たちが話しを膨らませていくのを耳に挟みながら客の相手をしていく。

「でもあんなにあの茶屋に通うんだから目当ての子でもいるんじゃなーい?」


目当ての、子。

私はぎゅーっと盆を握りしめ、チラリと彼を見たのだ。

「…!」

すると彼の視線がバッチリ合ったのだ。向かいの店だからといっても少し距離もあるし道だし、沢山の人が歩いている。でも、珍しい彼の翡翠の瞳が私を見つめているのを凄く感じた。彼には私の瞳が見えているんだろうか。
彼はにっこり笑うと私にひらひらと手を振った。
私も慌てて頭を下げて中に引っ込んだ。
ああ、顔が熱い。



(おしまい)


***
山がなけりゃオチがないのもいつものことですがまじすみません………。調子のってほいほい書いたら結局どうなった、な話になりました。