「平助くん。」 「お、」 名前を呼ぶと彼は振り返り、笑った。 「久しぶりだなー!」 「うん、久しぶりだねー。」 笑いあいながら自然に歩を前に進め出した。 彼と会うのは本当に久しぶりだ。 非番なのか、彼はいつもの明るい服ではなく着流しを着て刀をぶら下げている。 「今日は非番?」 「ん?あぁ、珍しく土方さんにもらったんだー。」 本当に彼は嬉しそうに笑ったので私も笑ってしまった。 「で?平助くん意中の彼女に贈り物だっけ?千鶴ちゃん…よね?たしか。」 「そ、千鶴。……ってこんなとこで言うなよ!」 ごめんごめんと謝ると彼は耳まで赤く染めながら別に、と言った。 かわいいかわいい。 まるで弟のようだ。 「うちの染め物屋で着物でも買ってくれたらな〜。」 「着物なんてあげれるかよ!」 「着物なんて重い、と思ってるのは案外男だけかもよ?」 彼はそうなのか?と私をちらりと見た。 「さぁ?」 「……なんなんだよ、もう。」 「ごめんごめん。…で、形に残るものがいいよね。」 「そう、だな……なあなあ、例えば俺があんたにあげるとするじゃん。何がほしい?」 彼の上で縛ってある髪の毛が揺れるのを見ながら私は少し驚きながら答えた。 「……んー。巾着か〜、簪か〜、香とか。あ、紅とかでも。」 「……なんかいっぱいあるんだな。」 「そう?でも香とかなら部屋でたけるしいいんじゃない?男装少女なんでしょ、簪あげても使えないなんてかわいそうよ。」 「だよな…。じゃ、買いに行く物も決まったし、行こうぜ!」 彼は私の手を引いて人の波を進んでいく。 その少しまめのあるごつごつした手が妙に色っぽくて……何考えてるだろ。 *** 辺りは夕暮れだった。 もうすぐ冬になるのだろう。夜は少し肌寒くなり始めた。また厳しい季節がやってくる。 「今日はありがとな。」 「良い物買えた?」 「勿論!やっぱ女のもんは女に聞くのがいいな!」 「そりゃあ、ね。まあ、こんなおばさんの考えが役に立ってよかったわ。」 「名前はおばさんなんかじゃねぇよ。」 私は思わず目を瞬かせた。 「名前は綺麗、だと思う……けど。」 少し頬を染めながら言う彼がかわいく見えたのか、よくわからないけどドキドキした。 「平助くん、ありがとう。」 「……おう。あ、……これ。今日のお礼な。」 私の手にしっかりそれを握らすと彼はじゃあな!と手を上げて走り去った。私は一連の出来事を頭でぼやぼやと繰り返しながら手に置かれたものの包みを開いた。 「…やっぱり、かっこいいよ。」 いつの間にこんなものを買ったんだろう、と思わせるくらいに彼には驚きだ。 私の手には包みから現れた真っ赤な簪が夕日照らされ、輝いていた。 (おわり) 甘いのか切ないのかすらわからないです。ほんとすみません。雪子にはここまでが限界でした……。ちょっと背伸びした平助くんを書こうと思いまして。ヒロインに贈り物する=まあ、ちょっと気になってる、な解釈でお願いします。 |