一歳企画 | ナノ
夢がなければ希望もない。
途方に暮れるだけの人生、日々。
楽しみといえば毎日聞こえてくる壊れかけのラジオからのニュース番組。
年頃の女の子にしては地味かもしれないけど仕方ないと思う。
だって、私の家や周りは貧しくて…子供が外を駆け回ることもなければ赤ん坊の泣き声さえ聞こえない。
赤ん坊は骨が浮き出るほどに痩せてしまい、見るに堪えない。
"明日"さえ、何に希望を持てばいいのかわからずに、私は今日を生きている。













変化は唐突にやってきた。
母が死んだ。
父は随分と昔に病気で亡くなり、女手ひとつ、身をこにして働いていた母が死んだ。
その事実は私に現実味を与えなかった。
母の死を気に病む人は私の周りにいなかった。
みんな自分の"明日"のために精一杯なのだから。






いつの間にか冬がきた




冬は嫌いだ。
肌が乾燥するし、体を温めるのには薄っぺらな毛布ひとつしかなかったから。

「それじゃあ寒くないですか?」

あの時と変わってごわごわな毛布を被る私に、アレンは温かな湯気が立ち上るマグカップを手渡した。
中身はココア。
甘党な彼らしいチョイスだと思った。

う〜、と横でもうひとつ自分ようのマグカップを握りながら寒い寒いと唱えるように言う彼はいつぞやの母に似ていた。
母もよく寒い寒いという私に温めた水を渡してくれた。
それでも寒い私はひとつしかない毛布でひたすらに外の空気に触れないように包まり続ける。
そんな私の横でよく母は寒い寒いと言って体を震わせるふりをしていた。
いや、事実寒かったのだろう。

「アレン、寒いでしょ?」

ばさりと自分が羽織る毛布を彼の肩にも半分かけてやると彼は顔を真っ赤にさせた。

「昔、よくお母さんとこうしてたの。」

「そうなんですか。…どんなお母さんだったか、聞いても?」

「…お母さんは、少女みたいな人だった。いつも明るいように見せてる人で、弱さは見せないの。何かあるごとに母は強し、って気合い入れてたなぁ…。だからかな。いつも、私ばっかり気にして自分を気にしなくて…。母親だっていうことに責任があったのかも。」

彼の肩に頭を乗せて寄り掛かると一瞬だけぴくりとその肩がはねたが、すぐに元に戻った。

「良い、お母さんなんですよ。」

「そう?」

「えぇ。きっと。」

彼は優しい笑みを私に見せた。
アレンは優しい。
それが本心は、はたまた違う心なのかわからないほどに。

「…良い、お母さんだったよ。うん。」

アレンはそっと私の手を握った。
私のほうが温かくて、なんだかそれが悲しく感じたから彼の手を握り返した。

「あったかいね。」

あの日の私の世界はとても閉鎖的だった。
今、私は教団に引き取られ過酷な戦いに身を投じる一人になってしまったがきちんと自分がいくべき"明日"を見ている。


いつか、あそこに住んでいる人たちも"明日"を掴むことができるのだろうか。
母は、"明日"に何の希望を抱いていたのだろうか。



ふぶき続ける外の景色を窓からちらりと見ると暖かさに目を綴じた。

次、目を開けたときに隣にいたアレンは任務なのかいなくなっていたけど、私一人にかけられた毛布に彼の香りが残っていてそれに妙に安心してしまった。



(おわり)


 明るいものを希望してらしたんですがいつもの如くどよーんとした作品になってしまいました…。調度雪のニュースを見ていたときに書いたものでして…。
 次回がありましたらまたリベンジしたいと思いますのでよろしくお願いします。