「何、ストーカー?ストーカーするために私は怠い体で歩かされてるわけ?」 「はは、二日酔いを覚ますのは薬でも睡眠でもないよ、君の場合。」 うっぜー。 「ていうかさ、なんか…漫画みたい。」 黒髪に眼鏡、巨乳。狩沢さんたちが好きそう、そんな美少女が三人の柄の悪い同じ学校の制服の少女らに囲まれ、壁に追い込まれている。 「まるで昔の藤緒みたいだね。」 「やめてよ、あんなの…。確かにさ、私も眉無しの時期はあった。否定はしないさ。でもねー、私は弱いもの虐めなんかしたことないよ。」 「そうだったかなあ。俺からしたら随分立派な弱いもの虐めだったと思うんだけどなあ。」 「売られたら買う。人間の貪欲な本性が滲み出てたでしょ?おかげ様で私は貪欲なままに人生を歩み絶賛怠惰な生活!」 そんな会話をしながらも私たち二人の足はある少年たちの元へ向かう。一人の少年がその現場に足を踏み出そうとしたその瞬間に臨也は彼の肩に手を置いた。 「イジメ?やめさせに行くつもりなんだ?偉いね。」 あからさまにわざとらしい関心したような声を出すとそのまま彼、竜ヶ峰くんの肩を掴んでぐいぐいと前に押し出し始めた。 「ちょ、藤緒さん!」 「あー…ごめん。まさかこんなことするとはさ。」 もう一人の少年、正臣くんに声をかけられ私はテンパる竜ヶ峰くんを見ながら思わず頬をかいた。 「な、なんですか?」 イジメる側にいたうちの一人が突如の知らない男に怯えたような声で言った。それは竜ヶ峰くんではない。まあ、大人だもんね。 「いやあ、よくないなあ、こんな天下の往来でカツアゲとは、お天道様が許しても警察が許さないよ。」 冗談のような言葉を吐きながら、臨也は女の子たちの方にスタスタと近づいていく。 「イジメはかっこ悪いよ、よくないねえ、実によくない。」 「おっさんには関係ねえだろ!」 ようやく本性を表したのか、あるいはできる限りの虚勢なのか、彼女らは顔を歪ませながら怒鳴った。私ははあ、と息を吐くと正臣くんの肩を抱きながら臨也の後ろまで行く。 「そう、関係無い。」 ニコニコ笑いながら言う。 「関係ないから、君達がここで殴られようがのたれ死のうが関係無い事さ。俺が君達を殴っても、俺が君達を刺しても、逆に君達がまた23歳の俺をおっさんと呼ぼうが、君達と俺の無関係は永遠だ。全ての人間は関係していると同時に無関係でもあるんだよ。」 そっか、私も臨也と同い年だから…その、おばさん、か。 「はあ?」 「人間って希薄だよね。」 意味わかんないよ。臨也はす、と彼女らに一歩近づいた。 「まあ、俺には女の子を殴る趣味は無いけどさ。」 次には、臨也の右手には小柄なバックが納められていた。高級そうなそのバックを見て一人が困惑の声を上げた。先程まで肩にあったバックが瞬時に、知らぬ間になくなったのだ。彼女の肩にかかっていた紐は、腰の辺りで綺麗に切断されていた。バックの紐を切断したとされるナイフを持った方の手で背中に手を回された竜ヶ峰くんはたまったもんじゃない。そのナイフもまた瞬時にしまわれたけど。 臨也はニコニコと笑いながら、そのバックの中から携帯電話を取り出した。 ううむ、どこで止めるべきか…。 「だから、女の子の携帯を踏み潰す事を新しい趣味にするよ。」 ………は? 彼の手にあったシールの貼られた携帯電話はカシャンという軽い音と共に地面に落ちる。 「あッ、てめ……」 女が慌てて拾おうと手を伸ばしたところで、彼女の指先を掠めるように臨也の足が携帯に踏み下ろされた。 グシャリ、パリ まるでお菓子をかみ砕くような音が響き、割れた欠片が足の裏からはみ出る。あぁーッ!という悲鳴も気にせずにそのまま何度も足は踏み下ろされる。そして、やはり機械のように同じ調子の笑い声を漏らし続ける。 「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ」 ちょ、やばいよ、と声を上げた子を筆頭に彼女らはそこを去って行く。携帯を踏み潰された彼女は放心したように見ていたが引きずられるように大通りに逃げて行った。 私は眉間を押さえた。あぁ、そういえば趣味をなくしたー…みたいな話が…。 臨也は彼女らが見えなくなったところでその足を、笑いを止めた。もう周り見ろよ、馬鹿。 「飽きちゃった。携帯を踏み潰す趣味はもうやめよう。」 臨也はそれを言うと携帯放置で竜ヶ峰くんに優しい微笑みを向けた。 まあ、なんて胡散臭い! 「偉いねえ。いじめされてる子を助けようとするなんて、現代っ子にはなかなかできない真似だ。」 「え……」 それを聞いて女の子は竜ヶ峰くんを見た。あー、知り合い? 「竜ヶ峰帝人くん、俺が会ったのは偶然じゃあないんだ。君を探してたんだよ。」 「え?」 「はぁ?」 竜ヶ峰くんと同じタイミングで私もまた、声を上げた。だがまた、それと同時にコンビニにあるようなごみ箱が飛んできて臨也の身体に直撃した。「がッ!」と普段は聞けない苦悶の声を耳にしながら私は投げた人物を見た。 「し、シズちゃん。」 「いーざーやーくーん。」 間延びさせた声。サングラスにバーテン服。蝶ネクタイもちゃんとついている。こんな人物、一人しか知らない。 「……もう、馬鹿。」 散々やらかして次はこいつかよ……。 「池袋には二度と来るなって言わなかったっけかー?いーざーやー君よぉー。」 臨也の顔から、竜ヶ峰くんの前で初めて笑顔が消えた。 「シズちゃん、君が働いてるのは西口じゃなかったっけ。」 「とっくにクビんなったさー。それにその呼び方はやめろって言ったろー?いーざーやーぁ。いつも言ってるだろぉ?俺には平和島静雄って名前があるってよぉー。」 もう、怠い。 静雄もタイミング最悪だし臨也のペースも怠いし。あー…今日は二日酔いの薬買って帰らなきゃ。強力な奴。あー…。むしろ岸谷くんのとこに…あー…いやいや。怠い。 私はイヤホンを耳に入れ、目を綴じた。 ちょ、藤緒さん!? と声がしたが無視。もう私は知らん。知らん、知らん。 0823 戻る *前 | 次# |