欠落 | ナノ

世界の終わりに光る星

ある日、母さんは言った。


「幸せになることは笑うことよ。」



***



ドーンと音がした。


「何、かしら。」


ぽつんと一人呟き、ユーレンは誰もいない周りを見渡した。


「………あ。」


リナリーが頭上を飛んだ。通り過ぎた。


『ほらよ、お嬢ちゃん!』


「シェイシェイ。」


にっこり微笑んで返事をすると肉まんを渡してくれたお兄さんは頬を赤くした。
それにユーレンはまた微笑む。


馬鹿な男。


こんなことを思っているのはユーレンだけの秘密である。


つかつかと歩く。リナリーが着地したであろう場所に向かって。つかつか、つかつか。ヒールを鳴らす。


「…死ね。」


違うところからこちらを見てにやにやする男に笑いながら言ってやった。




***



一行はある場所にいた。きらきらと輝く夜の町。そこは見た目を裏切らない豪華さを披露し、少女たちを招き入れた。
ここに来た理由は妓楼の女主人がクロスの恋人だという情報が手に入ったからである。

で、実際中に粗末、というかよくわからない招き方をされ今に至る。


「いらっしゃいませ。エクソシスト様方。」


しゃらんと頭の飾りを鳴らしながら言ったその女性。

彼女はアニタと名乗った。周りがほうける中少女は一人窓から港を見ていた。


「さっそくで申し訳ないのですが、クロス様はもうここにおりません。」


彼女はそんなことを言った。どうやら八日ほど前に旅立ったとか。どんだけ忙しいんだ。


「そして…八日前、クロス様を乗せた船が海上で撃沈したと知らせがありました。」


さすがにそれにはユーレンも目を開いた。

なんて、と聞き返すも返ってくるのは同じ答え。彼女が言うには、他の船が安否を確認しに向かったがそこには人も船もなく、ただ不気味な残骸と毒の海が広がっていたとのこと。


「沈んだ船の行き先はどこだったんですか?」


周りが何か言いたそうに驚いた顔をする中、少年は言った。


「僕の師匠はそんなことで沈みませんよ。」


「……………そう思う?」


彼女が流した涙は美しかった。


そして彼女は話し出す。自分の母親の代から教団のサポーターをしていること。そして、彼女が今回、クロスがいつ予定だった場所へ船を出してくれるとのこと。


行き先は、日本。江戸。






場所は港町。

ざーんと波の音がまばらに聞こえる。


「室長と話はできた?」


「ええ、ありがとう。」


「どーいたしまして。」


にっこりとユーレンは笑った。電話をかけていたリナリーにユーレンはついて行っていたのだ。


「………、何。」


ふとリナリーとユーレンは空を見る。空は黒でうめつくされていた。


「…あく、ま?」


何体いるんだと舌打ちすると突如現れたアレンくんのティムキャンピーがリナリーの頭を叩き、空を指差す。


「リナリー、アレンくんだっ!」


「掴まって!」


リナリーはユーレンの手を握るとイノセンスを発動させて飛び上がる。ユーレンは未だ慣れることのない浮遊感に身を任せる中で太ももにつけてあるホルスターからハンドガンを取り出すと、片手でマガジンをはめ、障害になるアクマを撃っていく。



「ユーレン、いくわよ!」


「了解!」


彼女はふわりと一回転するとアレンくんを掴むアクマに攻撃を入れる。


「アレンくん…っ!」


支えるものがなくなった彼が落ちて行く。

手を伸ばす彼。それはきちんと握られる。


「……っ、」


だがユーレンたち三人はまた驚愕する。
目の前に現れた自分たちより何倍もあるそれ。



「……っち、」


舌打ちするユーレン。


「いたぞぉぉおお!!」


アクマたちは進路をそれに向ける。必然的に進路にいるユーレンたちは巻き込まれることになる。


「きゃあ!」


リナリーも私もアレンくんもアクマの波にのまれ、手が解ける。


「…くそが、」


普段からは想像できない低い声で呟くとユーレンはバズーカを取ろうと背中に手を回す。


「……最悪、」


ハンドガン以外、トランクの中だ………。



どうしようかと銃を構えた瞬間にその手をリナリーに掴まれる。


「わっ!」


彼女のイノセンスのおかげで助かった自分。反対側にはアレンくんもいる。


「あ、ありがとう。」


「ううん。」


リナリーは返事をしてから大きなそれを見た。ユーレンも見る。アクマが、白く大きなそれに攻撃を加えていた。


「……!」


「攻撃されてる。まさかアクマたちはあの白いのを狙って来たのか…!?」


アレンくんが冷静に、だけど焦ったように呟く。

どうやら自分たちはとんでもない場面に出くわしたらしい。


ユーレンはひやりと汗を流した。


「スーマン…?」


ぽつりと隣で彼女が呟いた。



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