世界を愛しそこねた人 私がユーレンと初めて会ったのは、まだ幼かった私が解放されたとき。 「リナリー、ユーレンだよ。」 室長になった兄に紹介されたのは可愛い可愛い女の子。 「初めまして、よろしくね!」 明るくそう話かけてくれた女の子。でも私はなんて言えばいいのかわからなくてなかなか喋れなかったのを覚えてる。訳もなく口から謝罪の言葉が漏れてしまったけど、女の子は笑っただけだった。リナリーはそれに少し安堵し、あの狭い空間から抜け出せた実感、それから改めてできる友達、仲間に笑顔で自己紹介をした。 「リナリー・リーです。よろしくね。」 *** 「リナリー、大丈夫ですか?」 中国入りを果たして今までの道のりの疲れからか少しうとうとしていたリナリーに声をかけたのはアレンだった。 「あ、ううん。大丈夫!ごめんね。」 「いえ。」 にっこり笑う彼に自分も笑い返し、リナリーは目の前を歩くユーレンという名の少女を見る。次にちらりと横を歩くアレンを見れば、ばっちりと目が合った。 「…どうかした?」 「い、いえ!すみません…。………あの、」 「ん?」 アレンは言いにくそうに口を開いた。 「ユーレンさんって…ラビの恋人だったりします?」 リナリーはきょとんとした。確かに目の前ではユーレンがラビと手を繋ぎ、楽しそうに歩いている。普通に見れば仲良しのカップル。僅かな確率で家族、である。 「ううん、違うわよ!」 だがリナリーは少し笑いながら大袈裟に否定した。 「え、違うんですか?」 あんなに仲良しなのに…、とアレンは納得いかなさそうに呟くもリナリーの言葉が事実である以上どうしようもないというもの。 「二人は、確かに仲良しね。ラビが教団に来てから1番仲が良いのはきっとユーレンよ。」 「へー。ユーレンさんはいつから教団に?」 リナリーは眉を下げた。 「私も小さい頃からいるけどよくわからなくて…。ユーレンのほうが早いか…同じくらいか。」 「へー。すごいですね。」 アレンは素直に敬意を示した。だがリナリーは首を振る。 「それ、本人には言わないであげてね。」 「え?……何か、あるんです?」 アレンは真面目な顔をしてリナリーの話を聞く体制に入る。一方リナリーはユーレンの背中を見ながら寂しそうな顔をする。その表情を見たアレンは慌てて手を振り、言いたくないなら…と、言ってみるがリナリーは苦笑してみせた。 「仲間なんだし気にしなくていいわよ…。それに、ユーレンは言わないから。会話の途中でブラックワードが出たらたまったもんじゃないもの。」 リナリーはアレンを見ると少し歩く速度を落として話し出す。 「ユーレンね、自分の力…というよりイノセンス、かな?が、嫌いみたいでね。あと、寂しいけど…教団も。」 「じゃあなんでエクソシストなんて…。」 「ユーレンは、何も言わないの。出身地も、年齢も、なにもかも。」 「…………。」 「何も、言わないの。ただ、いつも言うのは自分が憎いって。」 「自分が、憎い…。」 リナリー、力を持ってる自分が憎くてたまらないよ。 ユーレンが見せるたったひとつの弱み。 「あと、兄さんが言ってたわ。私は、たまたま聞いてしまっただけなんだけど……。」 リナリーは思わず唾を飲み込んだ。 「仲間、だから言うね。絶対、内緒よ。クロウリーには私から後で言うわ。」 「はい。」 思わずアレンまでも緊張した面持ちになってしまう。 「兄さんが、ユーレンに言っていたの。」 ―――君のお母さん、まだ目を覚まさないそうだよ。 「って。」 「おかあ、さん……?」 アレンは思わずほうける。 「お母さんって、ユーレンの前ではあまり言わないであげて。あの子、言わないけど何かあるみたいで…。」 「でも、コムイさんは…。」 「ええ、班長も兄さんも絶対知ってる。でも、そのときに見たユーレンの表情は…とても、」 「リナリー?」 突如二人の世界を切り裂く声。アレンとリナリーはばっと前を見た。 「ユーレン……、どうかした?」 素早く切り替えたリナリーが、ユーレンに走り寄る。 「船、乗せてくれるって。これで目的地近くまで行けるんじゃない?」 「ええ、そうね。」 ユーレンは楽しそうに笑った後、アレンを手招きした。 「アレンくんも、はやくおいで!」 彼女は笑った。 0330 主人公について少し。 ▽ |