笑うレプリカント 好きなものは甘いものとかつての姉である母さん。あとマリア。 嫌いなものはピーマンとイノセンスと戦争と教団。 好きなことはお喋りとショッピングと寝て食べること。 好きじゃないことは……戦ったり、喧嘩したり。あと、寝られないこと。 普通の僕。 普通の青年。 一度、昔に一度だけ普段のフリフリを脱いで真面目に最近の男の子の格好をしたことがある。カラコンもやめてウィッグなんかも被らないで、メイクなんてのもしないで…。母さんはやっぱり男の子ね、と笑っていた。 教団を闊歩するたびに誰だあいつはという目線をくらったのを覚えている。 「ねえ、」 「ん?」 そのときにはもう体が弱り切ってて歩くことが難しくなっていた母さんが僕の袖を引いた。 「一人称を、俺にしてみない?」 「や、やだよ…。」 なんでもないことなのに妙に恥ずかしくなって口を手で隠した。 「あ、女の子だ〜。」 母さんは楽しそうに笑っていた。それすら妙に恥ずかしかった。 染み付いた体の動きはなかなか離れないし、その日は凄まじいほどに苦労したのだ。 「…母さん、」 「ん?」 「僕は、さ。あの……」 「ユーレン、」 「な、なに。」 言い出すこともなく話し出してしまった僕に母は優しく笑いながら小指を差し出した。確か、日本式の約束だったような…? 「約束をしましょう。」 「約束、って…何を。」 僕もそろりと手を出す。小指が絡まり、彼女の手の冷たさと細さがダイレクトに伝わってくる。 「大丈夫、身構えないで。……あのね」 彼女の口が開く。何かを話す。 僕は聞きながら頷いてみせる。 ……知らない。 「約束よ。」 「勿論。守ってみせるよ。」 ……こんな場面は知らない。これは…いつだ? *** バッと目を覚ました。 自分の呼吸が酷く荒い。心臓の動きもなんだか激しい。 「…、なんだ今の。」 男の格好をしたあの日のことはよく覚えている。いつもと違う自分が酷く怖かったからだ。 だが先程のあの日の一部の出来事は知らない。 記憶にないだなんて。 約束を忘れるだなんて。 とんだ失態だ。 「………にしても、ここはどこだ。」 一つ、ぽつーんと置かれたベッドに寝ていた。 0222 ▽ |