そこに彼女はいなかった 「ユーレン、…気をつけて。」 「ありがとう。すぐに追いつくよ。」 *** パン、と銃声。 「……お前、」 「よぉ、神田。悪いけど僕も残らせてもらう。」 神田は舌打ち。 「敵さんも、僕と神田は一人で二人ってことにして……さ、始めよう。」 *** 「まさかユーレンが残るとは…。意外でした。」 アレンは少し離れた扉を見た。 「でもユーレンって神田と仲良かったっけ?」 「ユーレンも、昔はよく神田と一緒にいたのよ?」 「へー。」 今はよくラビといるけど、とリナリーは補足した。 「ユーレンって干渉をすごく嫌う人だから神田やラビなんかとは一緒にいて心地好かったんじゃないかしら。」 「お、なぁんか照れるさー。」 ラビは頭をかいた。今だけの穏やかな時間だった。 「ユーレンって、強いんですか?僕が戻ってきたときには重そうなものを腕からこう、ね。」 「あれは第二解放さ。コムイやヘブラスカからストップかかってるけどな。」 「へ?どうして、」 アレンは首を傾げた。 「ユーレンはね、シンクロ率が人より不安定なの。高いときは凄く高いんだけど…」 「低いときはどん底!」 ラビがどんどん付け足していく。 「さっきの第二解放も結構きてたんだろうなー。」 「ユーレンの右手、第二解放の影響で私ほどじゃないけど大変なことになってるはずだから…。」 リナリーは自分の足を撫でた。やはり、彼をあそこに置いてきたのは間違いだったのだろうか。 「ユーレン、多分…自分の手が動く、尚且つイノセンスがシンクロできる確実な時に動いてたかったんだろーな。ま、足手まといにはならないだろ。」 「ユーレンってね、強いのよ。」 「だよな。まあ、男の癖に体力がないのが傷だけ…………ど?」 目の前の男3人が何故かあんぐりしている。 「ら、ラビの馬鹿!!」 アレンは出会ったときの違和感を思い出す。いくら小柄でかわいいからといっても骨の骨格まではごまかせない。 「は、はは…男の子。」 渇いた笑みが漏れた。 *** 「何、意外と強い。」 あの電撃、喰らうと一たまりもないな。 ユーレンは少し焦げた毛先を見た。よく感電しなかったな、自分。 「ぐあっ!」 目の前で敵の胴体がざっくり斬られる。血が、出る。 「……神田、手が。」 壊死寸前の、手。神田にはよくわからない回復能力がある。だが壊死寸前のそれに回復が追い付いていない…。 「遠距離の方が都合がいいな。……応えろ、イノセンス。第二解放くらい、耐えろ。」 酷使した右手にもう一度イノセンスを纏わり付かせる。さっき、方舟に乗る前より転換の速度が早い。手の負担も少ない。今なら、第二解放のままいける。 「充分だ。」 「…?」 「充分だろう。ここまでやれば。………満タンだ。」 奴が言った瞬間、神田の体から鎖が………。 「神田!!」 叫んだ時には神田の体が宙にあった。 奴は仕組みを語る。神田の体内に蓄積されていたエネルギー…。 片膝をつき、片手で重火気を固定すると撃つ。 「…速いな。」 よけられたんじゃ、意味がない。 「…神田、鎖を撃つ!」 自分のありったけの力で鎖を目掛けて撃った。 ………ら、奴に電流を流された神田がこっちにとんで…………。 「あぁぁあああああ!!」 バチバチと嫌な音。それから、それから……。 1106 ▽ |