欠落 | ナノ

私たち幸せの犠牲者です

痛みに無数の汗が落ちる。第二解放は、久しぶりだ。この痛みは、苦しい。イノセンス嫌いな自分にイノセンスが融合しているだなんて。


「エクソシスト様!」

ばっ、と後ろを振り向く。

「ラビが相手してるんじゃなかったのかよぉ!!」

重く痛いイノセンス(手)を上げ、そちらを見る。ラビが相手をしていたノアがリナリーたちのもとにいる。殺す気だ……。


「エクソシスト様を放せ、化物!」

船員だった数名が反攻の意思を見せ……、

「やらせるかよぉお!」

ガシャンと音がするとビームのようなものが敵に向かっていった。

チラリとこちらを見るノア。僕は笑った。

「…神田め、」

おいしい登場だ。


下から現れた彼は直ぐさま切り掛かるがこちとらそれどころじゃない。喉をはい上がってきた鉄を飲み込んだ。

「たった一発で拒絶反応だなんて。…とことん合わないな、僕らは。」

イノセンスを軽く叩いた。

あのどでかいアクマを倒すはずが…。
そのアクマは神田とマリの餌食となって終わった。


「………はあ、」


一息ついてぞわりと寒気。わけもわからず反射的に体を自分の体の半分ほどあるイノセンスで守った。




辺りが、光ったのか、闇に包まれたのか。体の痛みを自覚する間もなく倒れ込んでいた。

「……い、」

痛い……。目が、開かない。体が、痛い。怠い。重い。


嫌だ、帰りたい。

 ここは、怖いんだ。











「……母さん、」

「お、目ぇ覚めたさ?」

「…………、いっ!」

目が覚めてからはすぐに右腕が痛んだ。

「……なんだ、一体。何が、」

「お前伯爵の攻撃から目ぇ覚まさなかったんさ。」

「へぇー。…じゃなくて、どこに向かってる?何故姫抱き?」

ラビはおよ?と意味不明な声を上げると前を見た。僕も前を見た。

「…あそこで一旦休むっぽいな。」

「…下ろせ。」

「ん、あぁ。」

ラビはゆっくりと僕を地面に下ろした。未だ発動中のイノセンスがガシャンと音をたてて地面についた。音を聞いたのかこちらを見てブックマンがはやく来いと手まねいた。そこは、どこかの橋の下だった。

「ユーレン、歩けますか?」

「え、あ………ああ!?」

僕はいつもの澄まし顔を驚きでとくと、未だしゃがんだままそいつを指差した。

「な、なん、な……」

「あ、その……生きてたんです。」

アレンくんは照れたように笑った。

「……はぁ、」

安堵かなんなのかため息をもれたと同時に動かした手に激痛が走った。

「…、」

イノセンスがつけられたままの右手だ。

「ユーレン、とりあえず橋の下に。」

「うん、」




***




「………、」

汗がぽたりと地面に落ちた。イノセンスは大丈夫。だが……。

僕はイノセンスを解除した右手を見た。リナリーほどではないが、右手に違和感。動かしづらい。一種の拒絶反応だ。

自分の体を見る。
右腕以外の他の傷やらなんやらはミランダのイノセンスに治され、支障はなさそうに見える。だが、この右腕の痛みだけはどうにもならないようだ。





「リナリー。」


アレンくんとラビが眠っていた少女の名前を呼んだ。



「アレン……くん…?」



そのか細い声を聞いて少し、安心した。目覚めないことはないと思っていたが…。よかった。


三人で会話する傍に行き、リナリーに声をかけた。


「リナリー。」

「ユーレンも、ありがとう。」

「ううん。いいの、……よ。」



リナリーが、沈んで、消えた……?


「リナリー!」

「あっ!アレン!!」


いかん!狙いは……!


そんな言葉を聞きながら自分も沈み行く彼らに手を伸ばした。





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