欠落 | ナノ

失った真夜中の秩序

「着いたっちょ。ここが…」


船が離陸する。辺りは水とひらひらと舞う桃色の花、そして大きな鳥居に明るい月。


「ようこそ、日本へ。」



* * *


ザクザク

人の歩く音と風の唸る音、そしてアクマである通称ちょめ助が喋る声。

「日本国はもう三百年近く他国との貿易、干渉を一切拒絶した【閉ざされた国】として東の果てに存在してきた。」


「【誰も入れず誰も出てこれない】と…。」


「考えてみればうってつけの隠れ家だ。おそらく三百年の歴史の裏には伯爵が潜んでいたのではないか?」


ブックマンの発言に灯りを持ち、女性に姿を変えたちょめ助が頷きながら言う。


「伯爵様は日本を拠点に世界へ魔導式ボディを送り出してたんちょ。日本人口の9割はオイラたちアクマで国の政は全て伯爵様が行ってるんだっちょ。」


「三百年も…」


「伯爵とアクマの楽園っすねまるで。」


リナリーと彼女を背負った元船員の男が言う。


「この国に人間が安心して息できる場所なんて無いんだっちょ。まあ、それはオイラ達アクマにも言えることだっちょが……。」


……一体どういう、


「ちょめ助それってどういう…?」


ラビの言葉を遮るように彼女はピタリと止まって緊張感のある声で何かいる、と言った。

目をこらせば日本人のように着物を着た女性が歩いて来る。


「サチコ…、」


その女性は虚ろな声で誰かを呼んだ。


サチコ……?


疑問を抱いた瞬間に灯りをラビに預けたちょめ助が川村!と名前を呼びながら走りだす。


「サチコって…」


「オイラのボディ名だっちょ。アレは仲間の川村!同じマリアンの改造アクマだっちょ!」


彼女はぱたぱたと女性に駆け寄ると肩を叩きながら言った。


「迎えに来てくれたっちょか、川村!助かったっちょ〜。オイラもそろそろヤバくなってきてて…」


離す途中、川村という女性が不自然に震えだす。


ちょめ助がわからず名前を呼ぶ、と同時に蜘蛛の巣のようなものが川村を中心に張り巡らされる。


ギガガガガ


川村から出たアクマが鳴く。


「隠れろっちょ!!」

「へ?」


思わず誰かと同時に声をだすと道にある隙間と隙間に押し込まれる。


「アクマが来る!はやく!!」


隠れると同時に三体のアクマ。しかもレベル3。見付かれば勝つのは困難だ。負傷者が多すぎる。かく言う自分も負傷者の一人であるが。


三体のアクマは川村というアクマを貪り喰らう。


まさしく、弱肉強食だな。思いながらしばらくその光景を、息を潜めながら見ていた。



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