欠落 | ナノ

黄昏の野辺の送り



「ちょ、だっだだだだぁぁぁああああ!!!」


船の後ろから凄まじい声が響くと共に船はすごいスピードで進む。


甲板に出たが、潮風が寒くて退散したのは先程のこと。




コンコンと部屋にノック。

「ユーレン、」

「リナリー!足が酷いのに…。」

「心配しないで。」

「………ん。で、どうかした?」

応急処置の松葉杖をつきながら彼女は言った。

「今すぐ船を出る準備をして。」

「………そう。意外とはやかったね。でも、ここも…持った方か。」


部屋の窓を見た。景色はいっこうに変わらない。


「準備する。リナリー、一人で平気?」

「大丈夫よ、ありがとう。」

彼女はかつりかつりと音を鳴らしながら歩いて行った。僕はそれを見届けてから部屋の扉を閉めた。

船を出る準備。つまり、船から離れる。そして、ここの船員たちの死を伝えていた。


もう一度窓を見た。景色は相変わらず変わらない。でも、いつの間にか船は止まっていた。




団服の上から足首まである長いコートを羽織ると甲板に向かって歩いた。外は雨が降っていた。前を向くと、そこには自分意外全員がいた。


「ごめん、銃の仕込みで遅くなった…。」


「いや、いいさ。」


ラビも、浮かない顔。
だから思わず僕も黙って周りを見た。


「他の人達がいないけど……」

「あ、ホントだ。」


アニタさんに顔を向ければ彼女は悲しそうに僕に笑みを向けた。


「まさか……、」


リナリーが声を上げる。
アニタさんは頷いてから言った。

「ごめんなさい。彼らには見送りは不要と伝えました。今は船内で宴会をして騒いでます。どうかお許しください。最後の時を各々の思うように過ごさせてやりたかったのです。」

「生き残ったのは…あなた方だけなんですか…!?」

リナリーとミランダが涙を流す。視線の先には指で数えられるほどに少ない人数。


アニタは二人に微笑みながら近付き、ミランダの肩にそっと触れた。

「良いのです。私たちは皆、アクマに家族を殺されサポーターになった。復讐の中でしか生きられなくなった人間なのですから。…我ら同志の誰一人、後悔はしていません。」


僕が、もしイノセンスに適合しなくて…僕だけが生き残っていたら…僕は彼女らみたいに教団のサポーターになる道を、こうなる道を選んだのだろうか。

「江戸へ進むと、我らがつくった道を引き返さないとあなた方は言ってくださった。それがとても嬉しいです。」

マホジャさんが微笑みながら言った。


『勝ってください、エクソシスト様!!』

「な、」

『我らの分まで!』

『進んでいってください!』

『先へ!』


「拡声器から…!?」


『我らの命を未来へつなげてください!』


『生き残った我らの仲間を守ってください…、』


『生きてほしいです!平和な…未来で我ら同志が少しでも、生きてほしい……っ』


勝ってくださいエクソシスト様!


響く。響く。言葉が、痛い。





* * *



「江戸までまだ距離があら。とりあえず近い伊豆へオイラが連れてってやるっちょ。」


アクマが僕らが乗る船を肩に担ぐ。水を漕いでいくんじゃないらしい。


「必ずお役に立ちます!」

「ありがとうございます。」


生き残った船員さんたちが船に乗り込む。


「さ、アニタさんとマホジャさんも。」


次にリナリーが手を伸ばしたのは二人。
アニタさんが手を伸ばした。


「髪、また伸ばしてね。」


彼女が触れたのは、手じゃない。


「とても綺麗な黒髪なんだもの。戦争なんかに負けちゃダメよ?」


さようなら



彼女の手が、離れる。


「アニタさんっ!?え…、そんな…!」


そんな二人を腰掛けながら見ていた僕は飛び上がり、アクマの頭をたたく。


「なんで乗せない…!?なんで……!」

「二人が望んだことだっちょ。」

なんで……。呟くように漏れた言葉。


「……だから、嫌なんだ。エクソシストなんて。」


僕は誰かを殺してばっかりだ。




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