欠落 | ナノ

青い鳥は眩しすぎた



「ラビは、優しいね。」


呟くように言うとラビはきょとんとして、笑った。

「ユーレンも優しいって。」

そこは、暗い部屋だった。教団で僕に与えられた部屋は真っ暗だった。窓は、日が当たらず部屋にはじめじめとした雰囲気しか残さない。

「優しいよ。」

「ありがとな。」

ラビは僕の足に包帯を巻いていった。

「ユーレンも素直に医務室、行けばいいのに。ユーレンのことはナースたちは知ってるんだろ?」

「一部ね。」

できた、とラビは包帯から手を離した。だがその包帯はすぐに赤が滲み出す。

「いったい、任務で何して来たんさ?」

僕の横に腰掛け、ラビは言った。

「んー…人助け。」

「ふーん。」

本当だよ、と思わず苦笑した。

「……ラビは、優しいね。」

「またそれ?」

「優しいから、愚かだ。」

ラビは微妙な顔をしたけど間違ってはいないと思った。

「ブックマンに、向かないよ、君。」

「ユーレンは淡々としすぎなんさ。」

「淡々となんかしてないよ。心の中でぐーるぐーる思考が回ってまとまらなくて、最後には彼女に縋ってしまう。」

ラビは僕をじっと見た。思わず頬を引き攣らせるとラビは口を動かした。


「ユーレンが本当に必要としてるのは誰なんさ?お母さん?それとも…」「母さんだよ。」

僕はラビに微笑んだ。

「生きてるのは、母さんだ。死人に縋るのは許されない。でもね、ラビ。」


僕はそれでも、彼女を想わないなんてできないんだ。


「……ユーレン、」

「僕の過去は、ラビやコムイたちだけが知ってる。エクソシストではラビだけだ。…ラビ、僕は結構君を信頼してるんだよ。」


ラビは、目の前の少年を見た。少年なのに、姿は少女。少女と間違ってしまうほどに、ユーレンの姿は完璧だった。

ユーレンは、名前がつけられるような障害でも病気でもない。だが、趣味でもない。
でも、心に傷があるのだ。それは、心の病と呼ぶにしてはあまりに痛々しかった。


愛した人を手に掛けるって、なんなんだろな。


自分には理解することのない感情だろうとラビは割り切る。でも、時折うらやましくなるのだ。たくさんの感情を知る目の前の少年が。

窓を、見た。木では数匹の鳥が戯れていた。まだ、この世は平和なのだと実感した。



0804


また過去。