この眼が映せないもの 「ん、」 「気がついたか。」 「…ブックマン、」 彼は針を片手に私を見ていた。 「どれくらい気絶してた?」 「数十分じゃ。」 「そう。」 簡単な会話をして、周りを見た。戦闘は終わったらしく波が静かに揺れていた。 「…リナリーはどうなったの?」 「まだ、帰っとらん…。」 驚きで顔が歪んだのがわかった。 「はは、何。それ。」 彼女がいる方角を見れば、そこからはラビのイノセンスの持ち手だけが伸び続けている。 「ラビ、行ったんだ。」 「……。」 「馬鹿だね。ブックマンのくせして。…馬鹿な奴。」 結局、活躍するのはラビ。ブックマンにお礼を言うと人気ない場所まで離れた。波はやはり穏やか。でもそれが心を掻き乱した。 「また。また、役に立てない。」 同じ、銃形のイノセンスであるクロス。彼のように操るのはやはり無理なのだろう。そもそも僕のは彼と大分タイプが違うのだが。僕はイノセンスに名前をつけていないし、名前を感じたりなんかしない。第二解放みたいなものはあるが技の名前はない。名前がない。それはその存在を否定することだ。だがこれでいいと思うのだ。マリアを殺したこれに、名前なんかいらない。イノセンスなんか、大嫌いだ。 目を綴じる。また開く。ざわざわ、元いた場所が騒がしい。 「戻るか、」 汚い頭をわしわしとかくと、戻る。戻って絶句した。 「……なに、これ。」 そこにあったのは結晶の塊。そして中には眠るリナリー。 彼女に駆け寄るアニタさん。 「イタい、アたマ……が、」 痛みを、訴える。イノセンス。イノセンス?これが? 「一体何が……、」 周りではラビとブックマンが騒ぐ。 「ハートなんかね?」 思わず銃をぬいて振り向いた。 「アクマ…、」 「警戒をとけ、ラビ。ユーレンもだ。」 事情すらよくわからない僕はすぐに銃を隠す。 「クロス・マリアンはアクマの改造ができる唯一の人物だ。このことは黒の教団の誰も知らない。ワシとユーレンだけが知っとることだがな…。」 ラビは驚きにこちらを見た。だがすぐに後ろのアクマに気を反らされる。 クロス…。あー。嫌な名前だ。 小さい頃から教団にいるがあいつを好きになったことはないな。僕を酒の肴にしやがって…。あまつさえ母さんを口説きにかかるとか…。 「……、母さん。」 イノセンスを見た。 0802 ▽ |