落涙は欺瞞に消えた 船に揺れを感じたのはすぐだった。 「……っ、何。」 ドン、と激しい音が聞こえる。タオルで簡単に体を拭くと滴る雫を無視して服を着込む。シャワールームを出るとトランクからありったけの銃を体に隠していく。 そして足速に部屋を後にした。 * * * 攻撃されている甲板はイノセンスのおかげで綺麗であったが、酷い音が響いている。 「アクマめ、」 声を変えることも忘れ、舌打ちをした。 「じじい!じじいっ!」 甲板に出るとラビがブックマンを支えていた。彼に意識があるのかはここからでは確認のしようがない。 二丁銃を構えると敵に向かって撃ち込んで行く。 「あぁ、もうっ!」 だが地面と空中ではリーチの差なんてものではなく、随分と距離があるためやすやすとよけられてしまう。 「ユーレン、」 名前を呼ばれ、肩を叩かれた。 「リナリー…。」 「任せたわ。」 ギュン、とイノセンスを使い素早く飛翔する彼女。 任せ、る? 「ばかっ!勝てないよ!一人じゃだめ!リナリー!」 声は、届かない。 ぐ、と胸が詰まる。 「…リナリー、」 祈るように彼女が行った方角を見た。そして同時に目に入った雲が光って…、 考える間もなく体が頭上からの攻撃を避けようと動いた。 「ぐぁぁあ!」 断末魔。悲鳴。 「なんで、」 周りを見るとボロボロになった人たちの傷が癒えていく。ふわふわと自分仕様に作られた可愛らしい団服が風に揺れた。 ミランダのイノセンスの上ではラビ、クロウリー、そしてブックマンがいた。 また、空がきらりと光る。 「護りなさい、イノセンス。」 背中に背負ったロケットランチャーを手に握り、銃口に向かって手を滑らせる。 「っ!」 パン、と上に打ち上げると緑の膜が砲弾を塞いだ。 「総員聞けェ!」 声の方に耳を傾けた。そこに向かって走って行く。 「エンジン全開!無事な者は動力炉へ!手遅れの者は甲板で船の進路を守れ!舵は私が取る!」 全く、いい船長だ。 0802 ▽ |