ひとりぼっちで戯れる人 また僕の話をしよう。 僕が女の姿を始めたとき。その当時から僕がその辺の男より綺麗なことは自覚していた。因みにナルシストではない。その頃はまだ母は眠りについておらず、ただ病弱になった体で僕を見守った。 「だいたい女の子ってどんなの着るの?母さんは僕くらいの頃どんなの着てたのさ。」 「ん〜。そうね。じゃあ今度一緒に買い物に行きましょうか。」 母は笑う。自分じゃ気付かないほどに痛々しい表情で。 そして僕らは買い物のため教団から町に下りた。結局あの事件の後は、教団に言い寄られ入団。その時の条件としてこちらが出したのは「母の治療」である。勿論僕の傍で。 教団は止む終えず母まで教団に入れた。まったく、あの時のルベリエの顔ってばない。 「やー。かわいいわねー。」 「…………。」 ひくり、幼い頬が引き攣る。 「嘘。」 「嘘じゃないわ。あ、これなんかどう?」 見せられるのは何れもふわふわふりふりな洋服。まるで人形が着るような豪華で華々しい服である。 ぞくにゴスロリ、とか呼ばれちゃう系統の…。 「あ、これかわいい!あ、こっちも!」 「…もう、なんでもいいよ。」 自分にあてられる服を見てげんなりする。店員には哀れな目を向けられた。そう僕は男なのだから。 まあ、まだ幼いけど。 「……母さん、」 「ん?」 「なんでも。」 そう?、と言うと母はまた服を見繕い始める。もともと母の服は姉であった頃から派手だとは思っていたが……。 はあ、とため息。母も幸せのため息。 なんだこの違いは…。 「……。」 多分、僕は変わった。こんなにませたガキが他にいるなら教えてほしいくらいだと思うくらいにませた。マリアを消してからだ…。 誰かを殺せば皆自分のようになるのだろうか。自分のように、不安定な感情に。自分が、よくわからない。ただ平凡な人生だったはずだった。だが狂った。 狂った。 母が以前言った。 「貴方を森に行かせたのは私の責任ね。」 だから母はこうして未だ僕の傍にいるのだろう。僕らを縛るのはいつの間にか家族の絆ではなく、言葉の罪悪感になってしまった。 「いい買い物したわ。」 彼女は笑う。 やめろ。 笑うな。 「うん、ありがとう。母さん。」 ぼんやりとした。数年で、たったの数年で随分変わってしまった。僕らの関係も、何もかもだ。 * * * 目を開いた。 相変わらず船特有の揺れ方である。この揺れ方は好きじゃない。波の音も、好きじゃない。美人な女はもっと…。 「起きた?」 「……触るな。」 言って自分にぞっとした。僕を起こしてくれたリナリーは唖然とした表情をしていた。 「ご、ごめん!」 「いいわよ。悪い夢でも見た?」 「……母さんと、」 「…、」 「母さんと買い物に行った夢。」 それは幸せな夢?とリナリーは尋ねてきた。ユーレンは曖昧に笑って見せた。 「…幸せ、なはずなんだけど。」 「……そう。」 「僕、女の笑顔って好きじゃないんだ。…母さんの、あの人の笑顔は痛いんだ。痛い。痛いよ。」 「…ユーレン、」 彼女が掠れた声で名前を呼んだ。 「僕も、シャワー。浴びてくる。…またね。」 ひらり、着替えを片手にシャワールームに入りこんだ。 0802 ▽ |