不運な幸運



ああ、重い

こんな重い荷物を持たせるなんて先生もひどい…

放課後にみんなを巻き込むのは悪いから…なんて言わないで素直に手伝ってもらえばよかった…なんて、今更後悔。

ふらふらと歩いて教室へ向かう途中、
最大の難関、階段にたどり着いた。

転ばないようにそっと一段一段上って行く。

やっと最後の一段!

というところで気を抜いてしまった…


「あっ…」



転んだ。



荷物は死守したが、高校2年にもなって階段で転ぶとは…恥ずかしい。

人がいないかばっと周りを見る…。

すると、


いた。人が…。


「あっ……三反田先輩…」


ぶわっと顔が熱くなった、よりによって同じ委員会で…しかも好きな先輩に見られるなんて…恥ずかしすぎる。
穴があったら入りたい。


「撫子ちゃん!みっ、見てないよ!!何にも見てない!!」

「見てたじゃないですかぁっ」

「あっ…ごめっ、あの…大丈夫!?怪我とか」

「大丈夫ですっ、忘れて下さい!!」


あまりの恥ずかしさに走りだそうと足を踏み出す…
すると、ズキッと
左足首に痛み


「痛ぁっ」

「ああっ!だから言ったのに…ほら見せて」

「大丈夫ですよ…」

「大丈夫じゃないの!ほら、早く…左?」

「……はい」


三反田先輩は慣れた手つきで私の足を見てくれる。
いつも思うけど、処置をしてる時の真剣な顔の三反田先輩はかっこいい。

なんだか照れ臭くなって


「あの…これくらいなら自分でも処置できます」


と言ったけれど


「自分で見るのと人が見るのじゃ全然違うんだ、特に撫子ちゃんは…さっきみたいに無茶するだろ?」


なんて、返されてしまった…。


「…すみません」

「軽い捻挫かな〜」

「やっぱり…」


先輩はどこから取り出したのか、私の足に湿布を貼り、包帯を巻いてくれた。


「その荷物…僕が持って行くよ、3組だよね?」

「い、いいですよ!そんな…先輩に悪いです」

「だけど捻挫じゃ負担をかけられないよ」

「じゃあ…半分だけ……お願いします」


先輩は荷物を持つと歩きだす。
半分と言ったのにそれ以上持ってくれてる…


「あのさ、撫子ちゃん」

「はい?」

「さっき転んだじゃない?」

「……はい」

「全然、恥ずかしくないよ?」

「え?」

「僕なんてさ…一日一回くらいは普通に転ぶし」

「そんなこと…」


思い出してみると、たしかに、三反田先輩は委員会中によく躓いたりしていたような…


「何て言うか…ほら、不運なんだよね…保健委員って」

「不運…?」

「そう、だからさ…最初に撫子ちゃんが委員会に入ってきた時はすごく心配だったんだよね」

「じゃあ…私がさっき転んだのも不運って言いたいんですか!?」

「あはは…」


ばつが悪そうに苦笑する先輩…


「だけど…なかなか転んだりしてないから撫子ちゃんは大丈夫かと思ってたんだよね…まさか、2年生で発動するとは」

「不運の発動って…」

「ふざけてないよ!!これからも気をつけないと、ってうわぁっ!?」

「先輩っ!?」


何もない廊下で転んだ先輩…
半信半疑で話を聞いていた私だったけど、目の前で『不運の発動』とやらを見たら信じるしかない。


「先輩!大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫、怪我もないし…慣れてるから」


先輩は笑っているけど、不運とやらは恐ろしい…


「三反田先輩…不運って怖いですね」

「え?そう?…あー、だけどさ」

「はい?」

「不運だった分の幸運もいつかくるから…これはこれで良いかなって」

「幸運……」

「うん、不運の分だけ、大きな幸運がね」

「なんだか素敵ですね!そう思うと不運も怖くないです!!」

「でしょ?…まぁ、撫子ちゃんが転びそうだったりしたら、その時は守ってあげるけど」

「えぇ〜本当ですか?」


そんなことを話していたら、あっという間に教室に着いていた。
なにより、先輩が荷物を半分以上持ってくれたおかげで楽に運ぶことができた。


「三反田先輩ありがとうございますっ!!助かりました」

「いいよ、お礼なんて」

「だけど…処置もしてもらったし」

「いいってば…僕は幸せな時間をもらったから」

「え?」

「好きな子とこんなに長く過ごせたんだ…幸せでしょ?…いつも不運だからその分の幸運かな」



そう言うと先輩は「じゃあ、また明日」と言って帰ってしまった。





先輩のいなくなった教室、窓を開けると気持ち良い風が入ってきた。

まるで、火照る頬を冷ますような風。


外に向かい小さく呟く…





「三反田先輩……ずるいです」





だって…不運と幸運が均衡になるように与えられるなら
今、幸せな私はこれから不運になっちゃうじゃないですか。








だから先輩

その時は

守って下さいね…?




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