蝉時雨
照り付ける太陽、青い空には触れそうな入道雲、
唸るような蝉の声が鼓膜を震わす。
少しでも…と、涼を求めていつもの木陰へ。
前髪が、汗で額にくっつくのが嫌で、掻き上げる。開けた視界に映ったのは、求めていた木陰と、は組の皆本金吾。
彼は、どうやら委員会後のようだ…
ぐったりと座り込み、そこで涼んでいた。
「皆本君」
「…? あっ撫子ちゃん」
「委員会だったの?」
「そう、全く…参っちゃうよ!こんな暑い日に!!」
そういうと、彼は手をパタパタとさせて自らを扇ぐ。
私は、皆本君の隣、少し離れて腰を下ろす。
好きな人のすぐ隣に座るような勇気は無かったから…
「いけどんの体育委員会だもんね…」
「七松先輩…どんどん先に行っちゃって…次屋先輩は、また変な方向に行こうとするし…!!」
「あはは…お疲れ様」
私も、手をパタパタさせて皆本君を扇ぐ。
すると彼はエヘヘ、と少し照れたようにして笑う…
「撫子ちゃんは?」
「私は、授業が終わってあまりにも暑いものだから…この木陰、お気に入りなの」
「そっか、あっ俺…邪魔かな?」
「えっ?そんなことないよっ!」
むしろ嬉しいくらいだ…
なんて事が言えたら良いのに…生憎そんな勇気は持ち合わせていない。
「あっ…だけど、このあと虎若と団蔵と遊ぶ約束だったんだ」
「あぁ…そうなんだ」
「忘れてたぁ…やっぱり俺、行くね」
「うん」
そう言うと皆本君は立ち上がる。
「あと、俺…撫子ちゃんに言うことあるんだよね」
「えっ?」
「あのさ…俺…君の事がっ」
皆本君が何かを言おうとすると突然大きくなる蝉時雨…
何を言っているのか聞こえない…
「 」
声は聞こえなかった…
声は…
だけどその口の動きは確実に…
それだけ言うと皆本君は片手を挙げて笑うと走って行ってしまった。
私が勇気を出すより先に言われてしまった…
「好きだよ…かぁ」
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