バレー部


放課後になり、琴紀は高ぶる気持ちを抑えながら約束の場所、第二体育館へと向かう。
今日は友人達の誘いも断り、この時を楽しみに待っていたのだ。

しかしながら一抹の不安もあり、第二体育館の前に立った途端に急に緊張が込み上げてくる。
一応場所が場所なのでジャージに着替えてはいるが、勢いで見学を申し込み更には何部であるかも聞かなかったとは、本当に昨日の自分を呪いたい気持ちだ。

すぅ、と一呼吸をし、ドアに手を掛ける


「あの…失礼します」


ボッ−
広がる体育館に響くボールを叩く音。


「ナイッサー!」

「次ーっ」


掛け声とそこかしこに散乱するボール、恐らくはサーブ練習なのだろう。
そして転がるボールを見て琴紀は何部であるかを理解する。


「バレー部…」


そう呟き、動く気配のない彼女に気が付いたのか一人の生徒が駆け寄ってきた


「清水の言ってた後輩って君のことかな?」

「えっ…あっ!はい、多分」


声をかけられ、我にかえった様子で返事をする琴紀に笑いかけるおそらく清水と同級生だろうと思われる人物、その柔和な雰囲気に琴紀はほっと胸を撫で下ろした。


「多分って、まあいいや清水ー」

「はい、今行くわ」


返事をした清水は何かをホワイトボードに書き込んでいる様子だった。
彼にちょっと待っててね、と言われ頷く


「あの」


遠慮気味に声をかけるとなに?と嫌な顔せず答えてくれる先輩を目の前に琴紀は心の中でよかった、と安心した。


「ありがとうございます、先輩…清水先輩、バレー部マネージャーだったんですね」

「えっ?知らなかったの!?」

「えと、私、清水先輩に何部か聞くのを忘れてしまって」


そういって琴紀が俯きかけると、彼が吹き出した。
その大きな声で笑う姿にたじろぐと、彼は堪える様にして話を続ける。


「ごめんごめん、そっか…それじゃ君は清水に惚れてウチに来たんだね」

「惚れっ、というか憧れて、です!」


うんうん、とふざけているようでいてしっかりと理解してくれている様な、そんな笑みを浮かべるこの先輩に琴紀は妙な安心感を覚えた。


「ウチのマネージャー、大変だろうけど、楽しいと思う…まぁ、今日はゆっくり見学するといいべ」

「はい、よろしくお願いします…えっと」


名前が分からず口ごもると、それを汲み取ってか何も言っていないのに直ぐさま答えがかえってくる。


「菅原、君は?」

「滝沢です」

「うん、じゃあ滝沢、頑張ってね」


そう言ってひらひらと手を振り、練習に戻って行く菅原。

そんな先輩の背中を見ていたら、いつの間にか緊張も解れていたことに気が付く。


案外、昨日の突発的な行動は良い方向に転がっているのかもしれない。




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