面倒な彼と無気力な私


ひんやりとする床に座ってベッドにもたれかかる。

横に積み上げられた本たちの中から一冊を選んで取り出す。昨日買ったばかりの新刊達の内の一冊。

本の山が少し崩れたけど、まぁいいや。自分の部屋だしね。

楽しみにしていたその本の表紙をめくって一行目に目を通そうとしたその時―――

「ねぇ、柚葉ちゃん」

―――私の楽しみを邪魔する声が。

顔を上げれば、薄く笑みを浮かべた彼氏が妙に近い距離で座っている。

先ほどの声の主である目の前のこの男が、




及川 徹である。




「ねぇ、こうやって二人っきりなのも久しぶりだね」

クラスの女子たちの大好物であろう笑顔を私に向けて、これまた女子たちが黄色い声をあげそうな妙に低い声で言葉を紡いだ。

「…そう?」

まぁ、私はそういう感覚がいまいち掴めない系女子なので過剰な反応はしない。

そんな私に対して

「二週間も会ってないんだよ!?」

と過剰に反応する徹。

何コイツ。

反応が女子じゃないの。

「たかが二週間でしょー」

私はいつも通り、覇気のない声で返事する。

「ヒドッ!俺すっごく寂しかったんだけどなー」

「へー…」

甘えるような徹の声をよそにこの二週間を思い返してみる。

…ふむ、寂しいと思った瞬間はないな。

あるとすれば、何となく静かすぎる自分の部屋に違和感を感じたことかな。

多少の物足りなさも感じてなくもなかった。

そんなこと言ってやんないけど。



「冷たいっ!及川さん傷ついた!」

「そーですかー」

身を乗り出して訴えかける徹に生返事。

「癒してよー俺の彼女じゃんかー」

「えー…」

でたよ、このセリフ。

確かに彼女ですけど、私はバレーしてる時の徹に惚れたんですよー。

だらだらとすり寄ってくる徹じゃないですー。

いつもそう言いかけるけど、口には出さない。

面倒なことになるのが目に見えてるからね。




「何その反応!?なんでそんな嫌そうな顔すんのさー!?」

「いや、別に」


「なんでだよー」と喚き続ける徹。



…あぁ、どっちにしろ面倒だった。



思わず死んだ目で徹を見つめてしまう。


「そんな目で見ないでよ!…うぅ、もう泣きそう…!」

膝を抱え込んでうぅうぅと唸る。

しかもチラチラこっちを見てくるし。構って欲しいオーラ全開ですね、徹さんや。

無視して読み直そうと本を手に取るが「及川さん泣いちゃうよー…?」という徹の言葉にまたしても遮られた。


コイツ…!!


「……」

「うぅっ…!うっ、うぅっ…!」

「……」

「う、うぁ…うぅっ!」

「ハァ……」


…仕方ない。読書は諦めよう。



ぽん ぽん



「柚葉ちゃん…!」

少し頭を軽く叩いてあげるとうるうるした目で私を見上げる徹。

徹は、すごく扱いやすい。そして、

「…徹は、めんどくさい」

「ヒドッ!」

口ではそう言いながらも徹の顔はどこか嬉しそうで。

こんな徹も悪くもないかな。なんてその笑顔に思わされる。



…確かに面倒なことに変わりはないけどね。





面倒な彼と無気力な私





(面倒な徹に"好き"が尽きないのは、)













 

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