「あれ？緋山?」

今日は体育館のの修理だか何だかで部活は珍しくオフ。
帰ろうとしたとたんに降り出す雨。
傘をたまたま持ってきててラッキー、なんて呟きながら靴を履きかえた。
扉の方を見ると見覚えのある、というか俺が片思い中の女子の姿が。

「菅原君…」

傘、忘れちゃいまして。
困ったように笑う緋山にいきなり大きく音を立てる心臓。
その音を隠すように口を開いた。

「止みそうにないけど、どうするべ？」

「…走って帰ろうかな、と」

それは無茶だろ。
絶対に風邪ひくだろうし。

「…俺の傘入る？」

「え…」

ちょっとの期待と下心の入り混じった提案。
緋山はきょとんとた声をこぼす。

「いや、ほら俺の傘大きいしさ」

「でも、」

「いいからさ、送ってくよ」

傘を開いて半ば強引に緋山と相合い傘。
ちょっと無理やりすぎたかな。
ちらりと緋山を盗み見るけど、そこまで気にしてない。というかむしろ、申し訳なさそうな顔で歩いていた。





「あの、」

続いていた沈黙に耐えられなくなったのか、緋山が小さな声を出す。

「ありがとうございます。わざわざ」

「いいって！それより、同学年だし敬語じゃなくてもいいと思うよ？」

…俺が緋山とタメで喋りたいだけだけどさ。

「…わかり、じゃなくて、わかった」

「これからタメで話してくれて大丈夫だから」

何が大丈夫なのか全くわからないけど、緋山は特に気にしなかったみたいで「うん」と返してくれた。





「あ、雨やんだね」

「ほんとだ」

傘をたたんで空を見てみると、さっきの雨がウソみたいに晴れて一面が青く染まっていた。

「傘、ありがとう。私、こっちの道だから」

「そっか」

「うん。…また明日ね、菅原君」

「あぁ、また明日」

また明日ね。
まさか緋山に言われる日が来るとはなぁ。
頬をだらしなく緩ませて、自分の家路を急いだ。





雨のち晴天


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