風邪
こほっ
咳でヒリヒリするノド。
ガンガンと痛みを発し続ける頭。
全身が重くて、動く気にならない。
あぁもう、風邪ってめんどくさい。
「大丈夫?」
心配そうに私の顔を覗き込む音也。
「あつい」
一言返せば、音也の眉が下がる。
「やっぱりまだ熱高いかな」
呟く音也に、そりゃそうでしょ、と心の中で返す。
音也は自分の前髪をかきあげる。
うわぁ、恐ろしいほどに様になってる。
っていうか、なんか顔近づいてない?
コツン
「うわー、すっごい熱いじゃん!」
「…音也、近い」
「へ、あ、うわぁ!ごめん!」
私の一言に、慌てて距離をとる音也。
お互いの額が離れて、涼しくなる。
「ごめん!あの、別に変なこと考えてたわけじゃないよ?ほら、つい無意識でさ!」
顔を赤くして、手を振って謝る音也。
そんな顔しないでよ。…弄りたくなっちゃうでしょ。
「へぇ。音也は熱に苦しんでいる彼女に顔を近づけて、あまつさえ無理な体勢を強いているというのに、それがまったくの無意識でした許してください、と?」
「ご、ごめん!ほんっとにごめん!」
捲し立てた私に予想通りの反応をくれる音也。
カワイイわ、ほんと。
謝り続ける音也。
もういいかな。
「ね、許してほしい?」
「う、うん!」
「じゃぁね、来週末にデートして」
「え?デート?」
「嫌なの?」
目を丸くする音也に、問いかける。
答えなんてわかりきってるんだけど、あえて聞いてみる。
「全然イヤじゃないよ!むしろ行きたい!行こう、デート!!どこ行く!?」
さっきより大きな声で話す音也。
声が弾んでる。なんか、アレ。犬みたい。
私とのデートを喜んでくれるのは嬉しい。でもね、
「ん、喜んでくれてるのはよくわかったわ。取り敢えず、声が頭に響くから黙ってて」
「あ、ごめん…」
幻覚の犬耳がしゅんと下がるのが見えて、思わず笑ってしまった。
音也と話してたら、体のダルさもどこかへ消えたみたい。
やっぱりあなたの影響力はすごいみたい、音也。ありがと。
風邪(私の元気の素は音也です。なんてね)
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