三章 卵を惑わすラビリンス
魔術師、それぞれの道2
「おはよ」
 朝の学園、ローザがわたしの教室前、廊下に並ぶロッカーの前で挨拶してくる。
「おはよー。そっちは今日の一限何?」
 わたしは自分のロッカーを開けつつ尋ねる。
「古代語の授業よ。退屈だわー……って、すごいわね」
 ローザは横からわたしのロッカーを覗きつつ呟いた。彼女が目を丸くするロッカー内は一度全部綺麗にしたのだが、すぐに元通りわたしへの悪口だらけになってしまった。無事に演習を終えてきたせいか、筆跡から人数は減っているように感じる。ただ『病んでる度数』が高そうなものが残ってしまっている現状は、出発前より混沌としている。
「これとかさー、相手の方が心配になるよね」
 わたしが指差す血文字の『呪』にローザが後ずさる。が、何かに気付いたようで「何これ?」と言いながら戻ってきた。そして扉の裏に張られている紙切れの一つを掴む。
「あ、見ない方が良いわよ。鬱になるから。ヘクターが何でわたし達と組んだのか、の恨み辛みをひたすら綴ってるだけだから」
「そ、そう」
「文章からして同じソーサラークラスか、違うクラスでも魔術師科っぽいけど」
「陰湿さからしてソーサラークラスじゃないかしら」
「どういう意味よ……」
とわたしがローザの方へ向き直った時、聞き慣れた声が後ろから掛かる。
「学園のアイドルにちょっかい出しちゃあしょーがないねー」
「フロロ……」
 わたしが振り向くと、そこには頭の上で手を組んだフロロがいた。
「あんたなんでまたこんな所にいんのよ。シーフクラスは校舎まで別じゃない。っていうか『ちょっかい』って何よ」
「しっかもリジアは一緒に登下校までしてるみたいじゃんー。ズルいーズルいー」
 わたしの言葉を無視して囃し立てるフロロ。そうなのだ。毎日待ち合わせして、というわけではないが、なんせこれまでもバスが一緒だったりしたもんだからもうこれからは自然と一緒に通うことになる。どっちかが朝早い、帰り遅い、なんて日はバラバラだが今更シカトする方がおかしいじゃないか。
「ちょっと!変な言い方すんな!」
 わたしは顔と耳が熱くなるのを感じながら叫んだ。フロロを捕まえようと手を振り回すわたしと、それを苦労無く避けていくフロロを見ながらローザが深い溜息をつく。
「でもねえ……なんでリジアだけなわけ?あたしには何も無いのが納得いかないわぁ」
 見当違いなローザの台詞に一瞬呆れそうになるが、確かにイルヴァからもそんな話しは聞かない。やっても効果無さそう、とは思うけど。
 わたしのみに恨みを持っている、とすると「犯人は女であり『一緒にパーティ組みたかったよ』というよりは色恋の恨みである」と考えるのが自然だと思う。何しろ純粋にパーティメンバーとして希望していた層とは、出発前に和解……とは言えないが、納得はしてもらえていたと思うのだ。
 イルヴァには何も無い、というのが「魔術師科の生徒では?」と思わせる。すなわちわたしと同じような立場の子だったのではないか、と。
 そう思うとなんだか複雑な気持ちになってきてしまう。何しろわたし自身がちょっと前まで、ヘクターに憧れてるけど影からこっそり見るだけの半ストーカー女だったわけだ。
 学園の構成自体、魔術師クラスは女子が多め、前衛クラスは男子多めになっている。これは肉体の性質上から自然とそうなってしまうのだが、両者が関わりを持つ機会が今回のような混合パーティを組む時ぐらいしか無いわけだから、わたしのような立場の子はいっぱいいただろう。
 はっきり言ってわたしがヘクターとお近づきになれたのは運が良かったとしか言いようがないと思うので、違う子がヘクターと組んでいたらわたしがハンカチ噛みつつ、日夜呪いの手紙をしたためていたのかもしれないのだ。
「で?あんたは何しに来たの?」
 ローザの声にわたしは我に返る。
「アルからの伝言ー。今日の放課後、一階カフェテリアに集合だってよ」
 フロロはアルフレートのことを『アル』と呼ぶ。理由は「長いから」というエルフにとってはとても引っかかるであろう理由からだそうだ。
「レポート写させろ、とかじゃないわよね」
 ローザの台詞にフロロは首を傾げる。締め切りにはまだちょっとあるが、もう提出しているグループも多い。わたし達はというと乗り気のしないことにはとことん食いつきの悪いエルフのお陰でまだ未提出だった。
「知らないけど『面白いことがわかった』だってさ」
 フロロの言葉にわたしとローザは顔を見合わせた。
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