三章 卵を惑わすラビリンス
フローラちゃん2
「さて、どんなものか大体解って貰えたかね?」
 バレットさんは未だ茫然とするわたし達を見て満足そうに笑った。全員あの部屋に入った後、暫く観察して再び外へと戻ってきたのだが、ぶっ飛びすぎた未知の経験に感動も上手く沸いてこない。
「仕組みはさっぱりですけど……ようするにこの子の中に入れるんですね?」
 この子という言葉に反応したのか、イグアナがつぶらな瞳をわたしに向けて首を傾げる。こういう仕草を見ると可愛い気もする。
「そう、このイグアナ型ロボット『フローラ』ちゃんは」
 ぶおっ!アルフレートがレモンソーダを吹き出した。バレットさんは気にも留めずに続ける。
「移動式コンパクト邸宅なのじゃ」
 聞いた事ないネーミングだが、言いたい事は大体わかる。センスはどうかと思うが。
「邸宅……って様子じゃないわねえ。あの狭さじゃ」
 ローザが首を傾げた。その言葉にもバレットさんは鼻で笑って答える。
「このフローラちゃんはこれで終わりじゃないぞい。……なんとな、成長するんじゃよ。イグアナの成長速度は知っているかな?ものすごく大きくなるんじゃぞ」
 胸を張って説明されるが疑問は解決していない。
「……あの、これってロボットですよね?」
 わたしの言葉にバレットさんは大きく頷く。
「そうとも。しかしこれがバレット流発明品のすんごいところ」
「自分で言っちゃったよ」とフロロ。
「イグアナの生体を研究して組み立てたんでな。まさに本物と同じようなペースで成長するぞい。しかもそれに合わせて中も拡張を続ける。一年も立てばこの中で揃って暮らせるようになるかもしれんの」
「おお!それってすごいことじゃない!」
 ローザが歓声を上げた。わたし達六人が冒険の旅に出るに当たって、寝泊りの心配が無くなったわけだ。今は当てに出来そうにないが、雑魚寝出来る様になるだけでも嬉しいかも。
 ふと湧いたいかがわしい考えに顔が赤くなる。
「……何考えたか当ててやろうか?」
「やめて」
 アルフレートにわたしは全力で首を振った。
「二つあった部屋の片方、あれって操縦室?」
 フロロがワクワク顔で聞くが、返ってきた答えは理不尽なものだった。
「操縦というか……お願いできるぞい。フローラちゃんに」
 気まずそうなバレットさんに「何じゃそれは」と全員の声が重なった。
 料理が冷めますにゃ、という猫の小言を受けてテーブルに向き直る。ご褒美はやっぱり空腹を満たすご飯だ、とばかりにがっつくわたし達を見ながら、バレットさんは満足そうだった。
 とんとん、と背中を叩かれて振り返る。白猫タンタがわたしの顔を見てもじもじしたかと思うとにー、と笑う。
「途中でぬいぐるみ拾わなかったかにゃ?」
「あ、……これ?」
 わたしはフロロから貰ったぬいぐるみをポケットから取り出す。宝箱で見つけた猫のぬいぐるみは、箱を開けた本人から「やるよ」と言われてわたしが持っていたのだ。
 タンタは「それにゃ」と言うと腕を絡ませてくねくねし出した。
「それ、タンタが作ったにゃ」
「あ!やっぱり?似てると思ったんだよね」
 ぬいぐるみの猫は全身真っ白だが、手足の先だけ黒い布になっている。ちょうどタンタの毛色だもの。
「大事にして欲しいにゃ。壊れたら持ってきて欲しいにゃ」
 また来るよ、と言おうとして思い出す。わたしはバレットさんの方へ向いた。
「ちょっと気になってたんだけど、タンタ達はこの村から出られないの?」
 わたしの質問にバレットさんは少し目を大きくした後、頬をぽりぽりとかいた。
「んー、人懐っこくて疑う事を知らなくて、献身的で力が無い。どう思う?」
 わたしは眉を寄せるが、最後の『力が無い』を聞いて彼の言いたい事が何となく掴める。
「皆に可愛がってもらいたいけどね。不幸な子も出したくないわけ。わしの我侭かもしれんね」
 バレットさんはにこにことしていたが、初めて彼の真剣な顔を見た気がした。皆が黙る中、
「あんたはどうやって騙して連れて来たの?」
そう尋ねるアルフレートにバレットさんは、
「アンタはアレだ、エルフらしくない奴じゃのー」
と目をくりくりとさせた。仮にも依頼人、というバレットさんにする態度ではない、と冷や冷やするが本人は気にも留めていないようで良かった。
「まあわしもまた遊びたいの」
とビールを飲む科学者にローザが「それは約束出来ないわね」と返した。
「学園側にも報告する義務があるから。最初から最後まで、きっちりね」
 何やら匂わせる言い方のローザにバレットさんは、
「また出禁かのー」
と肩を落とした。
 彼には身から出た錆、という言葉を送りたいと思う。
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