三章 卵を惑わすラビリンス
正しき勇者達2
「あなたの企みは全てお見通しよ!」
 数分前の出来事など無かったかのように見事な演技で、ローザがびしりとバレットさんを指差す。
「ふ……ふはは、ふはははははは!それなら話しは早い……。ショータイムといこうか!」
 仕切り直しの間でキャラ作りの終ったらしいバレットさんは、ざっ!と右手を高らかに上げた。
「我が力、見せてやる!いでよ、ガーシュライザー!!」
 どん!という全身が揺れる振動と視界を遮る埃。大層な名前と共に天井より何かが舞い降りる。現れたそれは踏ん張った足を緩やかに直立の体勢に戻すと、わたし達の方へと頭を上げる。全身金属片をまとったその姿は一昔前の甲冑の鎧のようにも見える。ただ、とにかくでかい。本の世界でしか見た事はない巨人族ぐらいあるんじゃないか。優に二階建ての民家程はある。青い体に赤い頭部、銀の手足ととにかく派手だ。
「な、何よこれ……」
 わたしは思わず乾いた声を出してしまった。バレットさんが巨人の後ろから嬉しそうな声を上げる。
「驚いたかね!?私の研究の結晶、ロボットマシーン『ガーシュライザー』だよ!」
 はっはっは!と悪そうな高笑いが響く。その彼が両手で抱えているのはロボットマシーンとやらを操縦する端末なのだろうか。レバーのようなものが二つ付いたへんちくりんな箱を動かす度、ロボットはぎちぎちと奇妙な音を立て始める。それを聞いてわたしははっと顔を上げる。
「これの音だわ……!」
 耳障りな金属音と獣の唸りに似た響き。全てこのロボットから発せられる音だったのだ。
「こいつの特徴はパワーならトロル並み、しかしながら脚部の安定性によりスピードも……」
 うだうだとしゃべるバレットさんを総シカトしたイルヴァ、ヘクターの二人が巨人に向かって駆け出した。
「ふっ!」
 気合い一線、イルヴァがロボットの脛の辺りにウォーハンマーを叩き付ける。轟音が部屋に響き渡った。フロロが「わー!」と耳を塞ぐ。
「話しを聞けー!私の素晴らしい発明品じゃぞー!!」
 バレットさんがわーわーと騒ぐがおかまい無しに、イルヴァは攻撃の手を休めない。多分バーサーカー娘にとっては「わーい、何かボコり甲斐のある奴が出てきたぞー」ぐらいにしか思ってない。現に生き生きとウォーハンマーを振り回し続けている。
 ヘクターもロボットの足、関節に当たる部分に切り掛かりながら様子を伺っている。が、イルヴァのウォーハンマーを避ける為にあまり近寄れないようだ。
 ロボットの方と言えば二人の攻撃が致命傷にはならないものの、明らかにオタオタした様子だ。必死にパンチやらを繰り出しているが、軽々と避けられている。性能は良くとも操縦が追いついていないらしい。バレットさんは必死な顔でレバーをがっちゃがちゃ言わせ、その周りではタンタ達が飛び跳ねて応援をしていた。
「……どうする?このまま見てる?」
 ローザがこっそりわたしに耳打ちしてくる。
「うーん、まあでもそれも盛り下がるわよね。下の方だと二人に当たっちゃうかもしれないから、頭の方狙って何か撃ってみようか」
 わたしが答えるとローザが露骨に顔を歪める。
「あんたが?……まあいいけど。絶対大丈夫!って自信のある魔法限定ね」
 しつこく念を押される。この信用ゼロな感は少し親友としては酷いのではないか。色々言いたいが、わたしはとりあえず『自信のある魔法』を唱え始めた。
「エネルギーボルト!」
 わたしの指先から光球が放たれる。自信のある魔法といえばこれしか思いつかない。圧縮されたエネルギー弾はまたしても重そうに漂い、ロボット目指して飛んでいく。
「頑張れ!行け!お前なら出来る!」
 わたしの必死な応援を受けてエネルギー弾はふわり、天井の方向へ浮き上がった。
 イルヴァの方へキックをしようとしたロボットが丁度上体を持ち上げ、そこにわたしのエネルギーボルトがぼうん!と炸裂する。
「あ、当たった!当たった!」
 情けないが予想外の展開にわたしは飛び跳ねる。ロボットの方もくらくらするのか頭を振っている。人間が頭をぶつけた時に見せる仕草のようだ。
 その衝撃でなのか、頭の天辺についていた三角の飾りがぽろりと取れた。そのままバレットさん達の方へ落ちていく。
「わわわ!」
「にゃー!」
 バレットさん達は悲鳴を上げながら避ける。ロボットの頭に付いていた時は小さく見えたが、落下した際の衝撃も大きさもかなりのものだ。
「気をつけなさい!危ないじゃないか!」
「あはは、ごめんなさーい!」
 バレットさんの注意にわたしは思わず謝る。バレットさんはそのまま避ける時に落としたレバー付きの箱を拾い上げた。そしてはっとした顔でロボットを見上げる。
「や、やばい、逃げろ!」
 そう悲鳴を上げると猫達の腕を掴み、奥にある小さな扉に駆け込む。主の消えた室内、わたし達は呆気に取られてしまっていた。
「……何か様子が変じゃない?」
 ローザに言われてわたしはロボットを見上げる。耳に当たる部分からぷしゅーぷしゅーと煙を出し続けているロボットは『カッ』と目を見開いた。ランプのように瞬く瞳は赤、青、黄色と色を変え、全身は細かく振動している。
「パワー蓄えてる最中みたいに見えるな」
フロロの呟きにわたしは嫌な予感がしてしまった。
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