一章 探せ!ぼくらのリーダー
冒険へ出掛けよう2
「さあ今日はこれを埋めていくわよ」
 カフェテリアの片隅、昼時は過ぎた為生徒の数は少ないが、遅い昼食を取っている先輩の姿もある。その中、集まったわたし達にローザが掲げて見せたのはまたも一枚の用紙だった。
「何これ?」
 わたしが聞くとローザは大きく頷いて見せる。
「個人のスキルを記入していくの。やりながらお互いに確認し合えるしね。これを教官に見せると、それに基づいたクエストを紹介してくれるわけ。まあ『演習』はどれも大したものは無いだろうから、とりあえず形だけって感じじゃないかしら」
 説明を聞きながら記入用紙を見る。名前を書く欄と白い空白のマスが六人分ある。あとは教官のサインを記入する余白だけの簡単なものだ。
「じゃあ手始めにあたしから行くわよ」
 そう言ってローザはぽん、と手を叩く。
「プリーストクラス所属なんだから当たり前だけど、専門は『神聖魔法』よ。大地母神フローからの慈悲を頂く形態ね。他の魔法もそれなりに基本は抑えてるけど、得意分野は治癒だとかそういうものだと思って頂戴」
 追加で「さしずめ癒しの女神ってところかしら〜」と言うとフロロが顔を歪める。
「何よ、その顔。あんたの擦り傷、どんだけ治してきたと思ってるのよ!……次、どうぞ」
 ローザは隣りにいるイルヴァに手のひらを向けた。イルヴァがウォーハンマーを手に取り、立ち上がる。
「イルヴァはハンマーさんしか使えません。授業で一通りの武器を使いますけど、ソードもスピアもヘタクソです」
「……終わり?」
 確認するローザにイルヴァは「あ、あと力持ちです」と拳を握ってみせた。
「じゃあ、次」
 ローザの声に、
「私は何でも出来る」
「俺も何でも出来る」
と妖精二人が胸を張る。わたしとローザはわざとらしい程、大きく溜息をついた。
「何で一々突っ込まないと出来ないかな……あんた達のその細い腕でイルヴァのウォーハンマー振り回せるの!?」
「いいわよリジア……、じゃあ得意なことを教えてちょうだい」
 ローザの言い直しにアルフレートは胸を張る。
「精霊魔法だ。なぜなら私は精霊を統べる者、エルフだからな」
 そう答えてから「なんだ今の子供に聞くみたいな言い方は」と身を乗り出すが、隣りにいるフロロがそれを遮った。
「モロロ族っていうとどんな印象持ってるよ、にいちゃん?」
 フロロに指差され、ヘクターは目を丸くすると飲んでいたカップをテーブルに置く。
「すばしっこくて器用だね。盗賊ギルドに行くと半分が君達だって話も聞いたことあるよ。シーフに成るために生まれた種族みたいだな」
「そういうこと!その中でもとびきり優秀なのが俺なんだな。……で、アンタは何をしてくれるんだい?」
 フロロの言葉に話し手がヘクターへと移る。一度、腰に携えたソードの柄を触るとヘクターは口を開いた。
「イルヴァと似た感じかな。俺も剣の扱いには自信があるけど、他は駄目だ」
「一個自信があるって言えるものがあるなら十分じゃんよ」
 フロロの意見には同感だ。わたしはというと、何を売りにすればいいのかな。皆の視線を集める中、言葉に詰まる。アルフレートが「校舎破壊だ」と言ったり、フロロが「デーモンとかオカルトめいた話しになると長いぜ」などとうるさい。するとヘクターがこちらに顔を向ける。
「受けてる授業でいいんじゃないかな。この紙に書くのも、そういうことだと思うよ」
 そう言ってローザの持つ用紙を指差す。なるほど、そういうことなら、とわたしは頷いた。
「ローザちゃんみたいな神聖魔法は使えないけど、他の魔法なら一通り習ってるよ。専門は『古代語魔法』。あとは言語学とか地理学とか、そういう分野は得意かな」
 ローザがぱちぱちと手を叩く。わたしはほっと息をついた。ヘクターの前で話すこともそうだけど、皆に改まって自己紹介するのも恥ずかしいものだな、と思う。
 ローザは記入用紙を置き、ペンを握り締めてにっこり笑った。
「じゃあ!書いていくわよ!いよいよだわ〜!演習クエストは『お使い』か『モンスターの巣の掃除』くらいだけど、ある程度選ばせてもらえるんですって〜」
「なんだ、そんなものか。もっと大きな獲物を狙いたい。血沸き、肉踊るような……」
 アルフレートのうっとり顔を押しのけてフロロが手を上げる。
「俺、あったかいところがいい〜」
「イルヴァは海に行きたいです〜」
 一気に騒がしくなるメンバーをヘクターはにこにこと見ていた。わたしはその様子を眺め、何とも言えない安堵感に包まれるが、ふと思い出す。
 ……そういえば、ヘクターに『リーダーになってください』って肝心な部分を伝えてない気がするんだけど。いいのかな。
「……まあいいか」
 わたしはそう呟く。微笑む彼の横顔を見ながら、今更逃げられても困るのだ、と拳を握り締めるのだった。
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