一章 探せ!ぼくらのリーダー
冒険へ出掛けよう1
 出席予定の授業も終わり、わたしはミーティングに参加する為に階段へと走る。その時、
「リジア・ファウラー」
 聞き覚えのある声に背筋が伸びる。曲がり角からやってきたのは眼鏡を光らせたコルネリウス教官だった。タイトスカートから伸びた足をきびきび動かしこちらに向かってくる。
「メンバー編成書も提出して、承認されたようですね。おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
 怒られているわけでもないのに緊張してしまう。今日は嫌な汗をよくかく日だ。
「彼のような学年でも期待のかかる生徒が入ったということは、貴方達にもそれなりの期待が寄せられるということです。これまでのような行いではいけないということですよ」
 もう一度教官の眼鏡が光る。わたしは可笑しくもないのに笑顔で歪む顔で「はあ」と答えた。すると教官の目線がわたしの後ろへと動く。つられて振り返ると、黄緑色の髪の下に陰鬱とした表情を浮かべるディーナが歩いてくるところだった。
 あの後、メンバーを見つけられたんだろうか。というか話し掛ける段階をクリア出来たのだろうか、と思っているとコルネリウス教官がディーナの名前を呼んだ。ディーナがはっと顔を上げる。
「貴方もパーティが決まってなかったわよね、ディーナ。どうしました?」
「あ、あのう、私……」
 しばらくもじもじとしていたディーナだったが、答えにくそうに口を開く。
「私、『研究科』への試験を受けてみようと思って……」
 それを聞いてわたしは正直、残念だな、と思っていた。特に仲が良いわけではないけど、彼女が普段の聞こえてくる会話では通常のクラス、つまりわたしと同じように冒険者を目指す道を希望していたことを知っていたからだ。
 頑張ろうよ、という言葉をかけるもの白々しい気がする。それに全く運だけでパーティを組んでしまったわたしが言うもの気が引けた。そしてこのまま会話に参加してていいのだろうか、と教官を見ると、びっ!と指示棒が伸びるところを見てしまった。
「いいですか?」
 きらりと光る眼鏡にわたしとディーナは飛び上がる。教官のこの仕草が出る時は怒っている時だ。
「貴方、進級前の面談では通常のソーサラークラスにそのまま残ることを希望していましたよね?もちろん研究科は六期生から用意される制度です。一年あるのだし、希望が変わる生徒もいるでしょう。しかし、貴方のその姿勢がよろしくない」
 ぱし!と自らの手に指示棒を叩きつけるコルネリウス教官にディーナ、そしてわたしの姿勢も伸びる。
「前々から貴方が迷う素振りを少しでも見せていたなら、私も納得しましょう。でも貴方はつい先日まで冒険業に赴く希望を話し、旅の日々を夢見て未来を語っていましたよね?さあ、どういうことでしょう?それに、そのような姿勢で入ってくる生徒を研究に日々まい進する研究生達が受け入れてくれるでしょうか。彼らは彼らでエリートなんですよ?」
「あ、あの私……」
 何故かディーナがわたしに救いを求める目を向けてくる。が、この教官に反論するなんて冗談じゃない。
「……貴方また諦めましたね?」
 教官のすっと細めた目がディーナに突き刺さる。すると、
「ご、ごめんなさい!私無理です!男の子に話し掛けるなんて出来ません!」
 顔を覆ってディーナが泣き出す。うわあ、うわあ……。
「よろしい!」
 一際大きな声が響き渡り、わたしは再び飛び上がる。指示棒がディーナの顔に伸び、彼女も驚きで涙が引っ込んだようだった。
「よくぞ正直に不安の核を口にしました!貴方はいつも何が怖いのかも言わずに逃げているばかりでしたね、ディーナ。『男の子に話し掛けるのが怖い』よく分かります。年頃ですもの。でもね、長い人生を考えるとくっだらない!実にくだらない問題です!」
 ここでこほん、と一つ咳払いするとコルネリウス教官はディーナの肩を叩く。
「私がディーナに言いたいのは、立ちはだかる問題を口にすること。問題を明確にして対処すること。何事もやってみてから、それで駄目なら諦めましょう。まずは人見知りの対処方法から考えていきましょうか」
 この言葉を受けてこくりと頷くディーナに、わたしは思わず拍手する。が、鐘の音にはっとした。いかん、わたしはわたしでやる事をやらなければ。
 わたしはこっそり一礼すると『男なんて怖くない!』という講義に移り変わりつつあるその場を後にした。
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