一章 探せ!ぼくらのリーダー
切れるお姉さま2
 カフェテリアから出て行く最後の一人を見送り、にこにことご満悦顔だったメザリオ教官にローザが近づく。そして身を寄せるようにしてから肩を叩いた。
「嬉しい評価をどうもありがとうございます!で、これ、承認していただけるってことでよろしいですよね?」
 満面の笑みでローザが広げて見せたのはメンバー編成書。わたし達がじっと見つめる中、教官はぽりぽりと頬を書き、大きく息を吐いた。
「成り行きとはいえ、そうだな」
 そう答えると腰を屈め、テーブルに腕をついてペンを走らせる。メンバーの名前が並ぶ最後に達筆な文字でサインを書きこんだ。思わず全員で拍手する。やったやった!などと騒ぐわたし達を暫く見ていたが、ふと思い立ったように教官はヘクターの方に向き直った。
「それで一つ気になったんだが、どうしてまたこのメンバーに入りたいなんて思ったんだ?」
 ぴたりと全員が止まる。わたしも凄く気になっていたことだ。全員の視線を浴びる中、ヘクターはゆっくりと口を開く。
「あー、……面白そうだから?」
 その答えにローザと教官は頬を引きつらせ、イルヴァとフロロは手を叩き合う。アルフレートが「『から?』って聞かれてもな」とぼやく横で、わたしはちょっと変わった人だな……などと考えてしまった。


 翌朝、騒がしい学園廊下を欠伸しながらやってくると、わたしは手荷物を入れる為に廊下に設置されたロッカーを開ける。そしてすぐさま固まってしまった。
「まあ、凄いこと」
 あまり思ってなさそうな声に振り返ると、わたしのすぐ後ろに立っていたのはクラスメイトのキーラ。朝からお色気満点な顔で美しい金髪をかき上げる。
「聞いたわよ、学園の人気者を引っ張ってくるのに成功したんですってね?」
 にこっと笑うキーラは何だか楽しそうに見えた。わたしは「ま、まあ」と口ごもる。
「教官からも認められたみたいで良かったじゃない。でも、そのロッカーへの悪戯は序章と思った方が良いのかも」
 キーラが言うのはわたしのロッカーの中の惨状のことだ。もう一度確かめる為に振り返る。
 外から見た時は普段と変わらず綺麗だったというのに、中は酷い有様だ。まず目に付くのが背面部分に大きく書かれた『呪う』の文字。物騒な言葉が物騒な赤い字で書かれていた。
「これ、血……じゃないわよね?」
 キーラが眉をひそめる。
「じゃないと信じたいわね」
 わたしは答えながら中の側面に目を移す。びっしりと黒インクで書かれた文字は『破壊魔女』やら『問題児』などのくだらない落書きに始まり、「絶対に認めない、なぜなら〜」という気合の入った長文まである。
 キーラの「それ何?」という言葉に扉の裏側を見ると、何かのレポート用紙が貼り付けてあった。表紙を見ると「マナと四大元素」というお堅いタイトルにポリーナの名前が記されていた。思わずわたしは苦笑してしまう。キーラが不思議そうに首を傾げた。
「どういうこと?」
「優等生の負けず嫌いが発動したんでしょ」
 ぱらぱらと中を見ると徹夜で書いたのか荒い字が並んでいた。最後のページに「どうだ!」と書いてある。これ、評価しなきゃいけないんだろうか?
「荷物は荒らされてない?」
 キーラが元々入れっ放しにしていた辞書やテキストを確認する。「大丈夫そうね」と呟くと、こちらを見てにこっと笑った。
「もし荷物にまで被害が及んだらちゃんと言うのよ?その時は私も暴れてあげる。私、こういうの大嫌いなの」
 にこにこと言うも言葉の最後には殺気を感じてしまった。この見た目の彼女だもの。きっと今までした苦労があるのだろう。わたしはというと生まれて初めて浴びた嫉妬という馴染みないものに「物語の主人公みたいだな」とぼんやり考えていた。
「そういえばキーラはメンバー決まったの?」
 わたしが尋ねるとキーラは一瞬の沈黙を見せ、髪をかき上げつつ答える。
「まあね、前々から約束があったから」
 余裕の言葉である。さすが同級生以外からもモテる女は違う。キーラの長い睫毛を見ていると、廊下の窓から何かが覗いたのに気がついた。
「またフロロ、そんな所に乗って」
 わたしは窓枠に腕を乗せ、外から廊下に身を乗り出す猫耳男を睨む。
「連絡だよ。今日も授業終わった奴から集まって、ミーティングだ」
 言い終わるなりふっと消える姿に悲鳴を上げそうになる。慌てて窓に駆け寄り表を見ると、元気に中庭を駆けていくモロロ族四人がいた。ここ三階なんですけど。
「気合入ってるわねー。ミーティング重ねる過程で仲良くなれるといいわね」
 意味ありげな笑みでこちらを見るキーラにわたしは慌てる。
「な、何でよ、そんな不純な動機で仲間になったと思われたくないもん」
 それを聞いて「誰とは言ってないのに」と笑いながらキーラは去っていく。朝から変な汗を一杯かいてしまった。
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