一章 探せ!ぼくらのリーダー
切れるお姉さま1
「何だかよく分からんが、よく分かった」
 メザリオ教官はそう言って大きく息を吐いた。
「分からないならもう一度お話ししましょうか!?」
 わたし達の話しを聞き終え、難しい顔をしている教官にポリーナが黒いローブを激しく揺らしながら詰め寄る。が、教官は手を振り「座りなさい」と場にいる全員に伝える。渋々、という様子で皆が空いた席に着いた。
「正直に言って今、私はがっかりしている」
 メザリオ教官が良く通る声で言った第一声にカフェテリア内は静まり返る。ポリーナを始め、シーフの少年も他の生徒も眉を下げ、周りを伺うよう見合わせた。
「私がこの学園に来て日々生徒に物事を教え、五年間という長い間授業を受け持った生徒達が今主張している事は、私の理想とは掛け離れたものだったからだ」
「で、でもバランスの良いパーティを、と言ったのは教官ですよ?」
 ポリーナが手を挙げる。教官は髭を撫でつつ頷いた。
「ではバランスの良いパーティとはどんなものだろうか。成績の優秀な魔術師に成績の良いシーフ、誰もが腕を認める戦士。こんなものかね?」
 メザリオ教官は言い終わるなり「私は違うと思う」と否定した。
「腕の良し悪しはとても重要な事だ。難度の高いダンジョンに挑む場合を考えても、誰か一人が足を引っ張ったばかりに全滅、なんて事態が容易に想像出来る。では『何をもって優秀とするか』について考えてみよう」
 教官はポリーナ、そしてわたしを指差す。わたしもポリーナもびくり、と身を引いた。
「まずリジアとポリーナ。リジアは……まあ皆も知っているように魔法の使用、特に制御に関して非常に苦労している生徒だ。そしてポリーナ、彼女はクラスの中でも魔法の使用に関してとても器用だ。不得意分野も無くバランスが良い」
 言われたポリーナは胸を張り、横目でわたしを見てくる。むっとするが教官の話しが続くので、そちらに集中する。
「しかし学科になるとそうとも言えないと、私はそう評価している。リジアのレポートはどの分野でも毎回、きっちり理論立っていて出来る範囲は狭くとも表題に沿ったものが出来上がってくる。着眼点や選ぶテーマも面白い。そしてポリーナ、君はレポートも優秀だ。優秀な生徒が選びそうなテーマを選び、どこか見覚えのあるものが多い。一番頂けないのは、言葉巧みにごまかしが多い事。理解していないのに理解したかのようなごまかしが多い」
 ポリーナは徐々に身を小さくする。教官は一つ咳ばらいをした。
「魔法とは未知なるマナを解明しつつ、発動するもの。今のやり方だといつか躓くぞ?……かといって現在の評価が変わるわけではないので、勘違いしないように」
 教官のきっちりとした釘刺しにわたしも身を縮ませる。
「次、シーフクラスの君だ。フィラヴィオ君だったかな?」
 先程までのわたし達への詰め寄り様はどこへやら、シーフの少年は頭を下げる。
「君もクラス内では優秀な生徒だと聞いているよ。器用で体力測定値も申し分無く、真面目だと」
 フィラヴィオは少し目を輝かせるが、ポリーナの話しを聞いていたので「油断できない」というように上目遣いで教官を見た。
「ただ成績に残せない要素、というのがシーフにおいては重要だと思われる。例えば盗賊の重要であり基本的な仕事『聞き込み』だ。君のように肩に力が入り、メモを構えた状態で詰め寄って来て、学園の事を聞かれても私なら警戒するね」
 肩を落とすフィラヴィオの頭に教官はぽん、と手を置いた。
「しかし何事にも妥協せずに熱心になるというのはとても良いことだ。その長所は捨てないでいて欲しい。……一人一人に言葉を送りたいが、時間もあることだ。最後にしよう」
 そう言って教官はヘクターを見る。少し驚いた顔をする本人よりも周りの空気が凍りつく。
「ヘクター・ブラックモア、君は『何を考えているか分からない』と言われた経験は?君は自分の気持ちを周りに伝えるのが苦手に見える」
「そうだと思います」
 ヘクターは苦笑した。その答えに教官は満足そうに頷き、暫くゆっくりと歩き回る。
「このように人間の優劣など、色々な要素が組み合わさりすぎて測れないものだ。少々我の強いメンバーにヘクターのような子が入るというのは、私はとても面白いと思うよ」
 教官が言い終わると詰め寄ってきていた生徒の全員が気まずそうに顔を合わせ、次第に溜息をつきながら立ち上がる。がっかりして疲れきったように肩を落とす皆へ、教官は手を叩いた。
「まあまあ、そう気を落とさずに。今言ったように一つ着眼点をずらせば君らに合った優秀なメンバーは必ず見つかるよ。メンバー内での『輪』を作る、これも忘れないでいて欲しい」
 そう締めくくり、長い演説を終えたメザリオ教官は満足そうに髭を触るのだった。
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