一章 探せ!ぼくらのリーダー
異議あり!2
「もの好きな方だったんですねぇ、ヘクターさん」
 放課後のカフェテリア。昨日より一名増えたメンバーでテーブルを囲む。そんな中、大変自覚ある台詞を言うイルヴァ。同じファイタークラスでも違うクラスらしいが、イルヴァもヘクターを知っていた。イルヴァが他人を認識することのハードルの高さを知っているわたしは驚いてしまった。
「ほんとよねぇ。あんたぐらいだったら他にあったんじゃないの?誘いがさぁ」
 ローザも腕を組みつつ頷く。
「いやあ、見る目があるんだよ、彼には」
 上機嫌なのはアルフレート。まあ、彼のお陰、とも言えなくはない。絶対に感謝したりはしないけど。
 ヘクターはというと、にこにことみんなの話を聞き、口を開いた。
「いや、こんな魅力的なパーティはないと思うよ」
 こんな台詞でもおべっかに聞こえないのが彼のすごい所。それを聞き、五人の顔が緩む。
『そ、そうかなぁー』
 ヘクター以外の全員の声が重なった。それを見てまたにこにことする彼は、わたし達の救世主となるはずだ。なぜなら「ファイタークラスであり」「学年で誰もが知るような存在であり」「まともな人」という条件全てをクリアしているのだから。
 わたしはというと皆と一緒に同調したり、盛り上がったりはしているものの、まだ彼と目を合わせられない状態だったりする。現状に心が追い付いていけていないのだ。
「じゃあ早速だけど、これに名前書いてくれない?」
 悪徳詐欺師のような台詞と共に、ローザが昨日と同じように懐からメンバー編成書を取り出す。受け取ったヘクターがペンを紙に近づけた時だった。
「ちょっと待った」
 響いた声にヘクターが手を止め、見守っていたわたし達は顔を見合わせる。誰の声?と一人一人を見ていると、ローザがわたしの背後へ目を動かし「あ」と呟いた。
 わたしが振り返るとそこにいたのは何人もの生徒の姿。何故か全員がこちらを睨んでいる。
「俺達も彼を誘ってたんだ。その話し合い、参加させてくれ」
 先頭にいる盗賊のような雰囲気の彼が、わたしを睨みながら言い放った。それを皮切りに後ろに立つ生徒からも声が上がる。
「うちだって誘ってたんだぞ!参加させろ!」
「わ、私達なんて今年度始まってからずっと誘ってたのよ!?」
「それ言うなら、あたしなんて去年からアプローチかけてたわよ!」
「何それ!キモいのよ、ストーカー女!」
 派生した発言から喧嘩まで始まってしまい、声は鳴り止まなくなる。酷い混乱にわたしとローザは目を合わせた。すると横から「ポロン」と澄んだ音が聞こえる。
 一瞬で静まり返るカフェテリア内、全員の視線を集めるのはテーブルに座り込んだアルフレートだった。膝に置いた銀のハープを弾く度に美しい音色が響く。
「ぴーちくぱーちくうるさい奴らだな。理論的に話せないなら帰れ。さもないと……」
「さもないと?」
 シーフの少年はアルフレートの手元を見ながら喉を鳴らす。アルフレートはにやりと笑った。
「歌うぞ」
 ざざざ!と波が引くように集団は離れていく。同時に逃げようとしたわたしだったが、後ろからローザに腕を取られてつんのめる。暫く楽しそうに弦を弾いていたアルフレートだったが「さて」と言うと、ハープをテーブルに置いた。
「冷静に話せるなら聞いてやってもいい。だが一つ言っておくと彼、ヘクター・ブラックモアが選んだのは我々のパーティへの加入だ」
「そ、それがまずおかしいんじゃない!」
 叫んだのは黒いローブを頭からすっぽり被った少女。クラスメイトのポリーナじゃないか。よく他クラスの噂話しを持ち込んではおしゃべりに花を咲かせるような子なので、わたしはあまり仲良くしたことがなかった。理由はわたし自身が何言われてるか分かったもんじゃないからだ。
「あんた達、自分の評価を分かってないのよ!オカマだ、音痴だ、規則も守れない奴ばっかりで、彼は未来あるエリートなのよ!?」
 悲鳴のような叫びにシーフの少年が続く。
「そ、そうだ!絶対おかしい!何か脅迫して加入させようとしてるんだろう!?」
 ヘクターが困ったように手を振り、それを遮った。
「いや、それは無いよ。そんな事されたなら余計に入らない」
 その言葉に感動するわたし。ポリーナは「う」と詰まったが、こちらをびしりと指差してくる。
「じゃ、じゃあヘクターはこいつらがどんな問題児か知らないのよ。ずっと同じクラスだったもんだから散々迷惑掛けられたのよ、その魔術師には!」
 わたしは思わず指差された方へ振り返る。すると後頭部に「お前だ!」という罵声が降ってきた。
 再び騒ぐ声は止まなくなってしまう。
「ど、どうすればいいのよ」
というローザの涙声を聞いて、わたしは頭に血が上るのを感じた。すると次の瞬間、ぱーん!という乾いた音が連続で聞こえ出す。すっと静かになる集団にアルフレートを見るが、彼は腕を組んで座り込んだままだった。
「こらこら、何の騒ぎだ、これは?」
 厳しい顔で手を叩きつつ入ってきたのは、学年主任であるメザリオ教官だった。
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